読者は作者に依存するっ!
りり
一話 「ご褒美の為なら死んでも書き綴る!」
戦歴××××年
暗闇が覆う高原、遠方に
否、
「我らが
元帥、メルグ・ベインが率いる
「今こそ世界を脅かす闇を打ち払う時!皆の者!我らが聖光に幸あれ!」
大将、ノーレス・ウィンベル率いる光翼を持つ
これまで幾度となく、前者は己が存在を後者は世界を守る為に死闘を繰り返してきた。
しかし結果は毎度変わらず死者を出しながらも聖騎軍が勝利を収め、霊騎軍が撤退、そして失った勢力を補っては交戦の繰り返し。
だが、交戦を始めて数十年目の事。
霊騎軍との交戦スパンが突然短くなり、戦いを続けるも無限に湧き出る死霊を相手に残った天界の人間は争いの始まる前の1/4にまで減ってしまった。
これがきっかけとなり勝利への疑心暗鬼になった聖騎軍の一部の隊が反乱を起こしてしまう。
交戦スパンを短縮する事により1度の戦闘で疲弊した者を確実に打ち取り勝利から不安を誘う、死霊ならではのゾンビアタック。
そう、メルグ・ベインの策略通りだった。
これを読んでいた元帥メルグ・ベインの指示の下、交戦のタイミングで反乱した聖騎兵達が奇襲、それに畳みかけるように正面から霊騎軍が攻め入り聖騎軍はとうとう劣勢に陥った。
「はっはっは!、貴様ら聖騎軍の猛者は全て打ち取った」
メルグ・ベインは淀んだ声で嘲笑すると、右手に持つ大鎌を地面へと項垂れ
周囲には、溢れる血溜まりに幾度の戦いの果ての聖騎兵の山。
だが、霊騎兵に殺された者は死して尚、死より恐ろしい苦しみを味わう。
【
虚ろになった肉体に死霊が入り消え去る前の魂を喰らい、その肉体の備える能力を携え生者を襲う。
「これまでか…」
ノーレス・ウィンベルを残し聖騎軍は息絶え、いや新たな生の下でノーレス・ウィンベルを喰らう為に聖騎兵の体を用いて蘇る。
「己に絶望したか?だがそう落胆するべきでは無い」
メルグ・ベインの宛がう鎌が薄くノーレス・ウィンベルの首筋に一筋の血を滴らせる。
「死は絶望では無く新たな生なのだ!貴様の命も肉体もまた我が糧となる!」
一度ノーレス・ウィンベルの首元から大鎌が離れ距離を置くと再び鋭利な刃が
「くっ・・・セラフ様・・・霊騎兵などに葬られる私をお許し下さい・・・」
「さぁ!死してその
「アウトぉぉぉぉ!」
不意に背後から聞こえる制止の声に、我に返った私は背後へと顔を向ける。
「ちゃんとやってるかと思ったら!」
そこには、買い物袋を両手に持ち怒りを露わにする綾音がいた。
私の昔からの幼馴染で、物語を紡ぐ優秀な私の助手だ。
昔から私の死んだ叔父との関わりもあり、叔父が残してくれたこの神上荘で大学に通いながらシェアハウスをしている。
そんな私は
やりたい事には本気、逆に面倒な事は絶対やらないような性格の他称天才の可愛い金髪美少女ストーリーテラー19歳。
・・・察しの通り、性格柄大学には馴染めず綾音とは違い中退した。
正直、私を知る者達は皆フリーター余生を歩んで行くんだと周りの誰もが思っただろう。
しかし、そんな矢先で私の運命を大きく変える出来事が起きた。
趣味で投稿をしていたライトノベルが投稿した記憶すら曖昧だが、最終選考の枠を超え。
私がその事実を知る前に出版社から製品化の通知が来たのだ。
まぁ、要約するならば・・・気が付いたら小説家になってました。
そして今は12作目となる新作の納期1か月前。
とはいえ。
「ちゃんとやってるじゃん」
視線を執筆中の文書の方へと戻し、机にだらーんと凭れかかる。
「どこがよ!次の提出ジャンル忘れたの!」
提出ジャンル、と言うのも私の最終選考を通ったライトノベルのジャンルは異世界ファンタジー、故に出版社は私の得意分野だから書きやすいだろうと思っているのだろう。
その結果、これまで書き上げて来た納品物10種類以上全てが異世界ファンタジー。
ここまで言えば、誰でもわかるだろう。
「だから異世界ファンタジー書いてるじゃん」
「どこが!これじゃ異世界BLじゃない!」
「違う!異世界コメディと呼んでくれ」
「シリアスなコメディとか聞いた事ないわよ!」
まさに、ああ言えばこう言うとはこの事。
けどこれはいつもの事なんだ、大体納期が迫って来ると本人より切羽詰った感満載で綾音が切り出してくる。
「だって飽きたんだもん・・・」
「飽きたって…」
買い物袋を床に置き、はぁ・・・とため息交じりに綾音がリビングの椅子に腰かける。
「雅ちゃん・・・?これはお仕事なんだよ?」
知ってる、けど飽きたんです。
「わかってるけどさぁ・・・こう同じジャンルばかりだとネタも切れてくるじゃん・・・?」
ある時は、勇者が反逆してヒロイン王女を打ち取りに行くお話とか。
またある時は、仲間が実はモンスターで自分を餌としてしか見てないパーティの冒険話とか...etc。
「そこで独自のアイデアを作り上げるのが小説家でしょう・・・?」
まぁごもっとも。
けども、ネタが切れて来たって言うのも本当な訳で...。
「私だって他のジャンル書きたいんだよ・・・?」
少し頬を膨らませながら嘆いてみた。
「例えば?」
「例えば・・・例えば・・・うーん」
「ほら、何も無いんじゃない」
無いわけじゃ無いんだけど、こう異世界物ばかり書いてると・・・ね?。
すると呆れた顔で、綾音が私の隣に積まれている文書を手に取る。
「ほら、これだって中盤まではとても良い感じじゃない」
それは、さっきのメルグ・ベインとノーレス・ウィンベルのお話だ。
元々は仲の良かった2人だが、流行り病を偶然飲み物を差し入れたノーレス・ウィンベルが毒を盛ったと勘違いしてメルグ・ベインの勝手な復讐心が病死後に怨念として残り復讐心から始まる戦争物だ。
「何も、同じジャンルに拘らなくてもいいんじゃない?」
「だけど異世界ファンタジー書けって言われてるし・・・」
「異世界ファンタジーでも別に異世界の中での出来事を綴る訳でしょう?」
そう言うと、綾音は新しい用紙を取り書き綴る。
「例えば、さっきのメルグとノーレスの戦争話だって」
見ていると、用紙に戦争× 復讐×と書き綴る。
「戦争と復讐の概念を消して第三者がメルグを毒殺したってすれば犯人を捜すためのミステリーになるでしょう?」
なるほど、綾音が言いたいことはつまりこうだ。
「ノーレス!き、貴様・・・私に毒を盛ったな!」
「違うんだ!私では無い!メルグ!信じてくれ!」
第三者「(計画通り)」
しばらくの後、メルグが死亡。
「くそっ!メルグ・・・一体誰が毒を・・・!」
すると、下町でメルグと会話していた黒ローブの男の話を近衛兵から聞く
犯人だと決めつけ、怒りを抱え場内から下町へと駆けるノーレス。
下町への途中、路地に消える黒ローブの男を見かける。
「あいつに違いない!」
足早に駆けるノーレス。
すると突如、後頭部に鈍い痛みが襲った。
そこから長い時間眠っていたのだろう。
「う・・・うぅ」
「頭!目を覚ましたようですぜ」
「くっ・・・貴様ら何者だ・・・!」
「ノーレスよ・・・貴様を待っていた・・・」
視界に映るのは多数の男の姿・・・
気づくと、自分の身ぐるみを剥がされている事が分かる
「おとなしくするんだな・・・」
「な、貴様たち何をする…!や、やめろ…!」
アアアアアーーーッ♂
・・・・・・・
何故私はまたBLに踏み込んでしまったのだろうか、どうしてこうなった。
「非情に申し訳ないのですが・・・先生、全然アイデアが浮かばないです」
これが俗に言うスランプと言う奴なのだろうか。
「ここまでアドバイスしてあげたのに!?」
綾音は一層大きなため息を吐いた。
「はぁ・・・これじゃ皆との約束は守れそうにないわね・・・」
あれ?何か約束したっけ・・・?うーん・・・。
ここ数週間、起きては文書に向かってPCで作業(動画を流す)をしてのニートもびっくりな毎日で大分記憶が危うい。
約束・・・約束・・・約束・・・。
「はっ!?」
そうだ、忘れていた。
「温泉っ!焼肉っ!やっつはしー!」
皆で納期分を早く収めたら・・・綾音や友達を引き連れて・・・旅行に行くんだっ!!
あ、三度の飯より八橋大好きなんです八橋!ニッキの奴、フルーツ餡は邪道です。
「あーあ、今年も雅ちゃんと行けると思ったけど・・・残念だなぁ・・・」
手に取った文書を元に位置に戻すと、綾音はと残念そうにキッチンへと立ち去ろうとする。
「終わらせます、死んでも終わらせますからっご慈悲を!」
「うん、素直でよろしい」
ここまでがいつものテンプレ。
とはいえ、ネタが減ってきている以上どうしようも無いんだけども。
旅行の為にやるっきゃないよね。
それを察した様に綾音が隣の席に再び腰をかける。
「ほら、私も手伝ってあげるからさっさと仕上げるわよ」
「ふぇーい」
そのまま、私達はお互いの案を元に物語を書き綴り始めた。
まさか…次回作があんなことになるとは知らずに・・・。
2話へ続く
読者は作者に依存するっ! りり @toririd
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