第八話 『ホワイトウルフとの死闘』

──やべぇ、こいつ強すぎる。

八百の前には高さは三メートルは越すだろうか、巨大な魔人が立ちはだかっていた。右手には大きな刀が握られている。八百の日本刀とは違い、両刃で反りがないタイプだ。あんなものをまともに食らえば、人間などひとたまりもない。

「無理ゲーだぜ、これ」

後ろを振り返ると天童が地面に転がっている。ピクリとも動かず生きているかさえ定かではない。少し前に彼女は魔人の刀で斬られはしなかったものの、奴の拳をまともに食らったのだ。八百を庇って。

ホワイトウルフの討伐だというから、白い狼を想像していたが、勘違いも甚だしい。森に入り、どんな敵にも出くわさず、本当にここであってるのか? と天堂を問い詰めていたところ、こんな化物が姿を現した。

「報酬が八万ユールなわけだ」

八百は渋い表情をしながら呟いた。

魔獣は全身真っ黒で何故か顔が狼である。まるで狼の首を縫い付けたかのように見える。

「顔だけでホワイトウルフとか付けんなよな」

それに腹を立てたのか、ホワイトウルフはいきなり八百めがけて刀を叩きつけてきた。

「くそ!」

八百はかろうじてそれを躱した。が、二撃目がすぐにきた。ホワイトウルフは叩きつけてすぐに刀を野球のように横にスイングしてきた。八百は躱しきれず、刀を構えるが、触れた瞬間、後ろに吹っ飛び巨木に叩き付けられた。

「がはっ! ごほ! ごほ!」

八百は血を吐きながら、ヒュウ、ヒュウと呼吸をする。

──こいつはマズイな。肋がいっちまった。俺ひとりなら恐らく逃げ切れるだろうが……

「あの女、俺なんか庇いやがって!」

八百は刀を地面に突き刺し、何とか立ち上がった。

「天才が聞いて呆れる。女に命を救われ、そいつさえ守れないんだからな」

八百は刀を鞘にしまい、そのままホワイトウルフにめがけて突進した。


──聖心流居合 『鬼凪』


神速となった八百の刀身は魔人の腹を捉え、薙ぎ払──

「無茶苦茶だろ」

ホワイトウルフのとてつもなく頑丈な筋肉がそれを許さず少し傷がついただけで終わった。

「ウォォォォォォォォォ!!」

ホワイトウルフはそのまま拳を上から振り下ろしてきた。八百は躱す力も受け止める力も残っておらず、地面と拳にサンドイッチされた。

骨が砕ける音が耳まで届いた。そのまま八百の意識が途切れようとしたそのとき、八百の耳に聞き覚えのある音が届いた。

天堂が咳をしたのだ。意識はまだ戻っていないが、生きていたのだ。

するとホワイトウルフはその音に気が付き天堂に向かっていこうとした。

「お、あぁぁぁぁぁぁぁ!!」

八百は血を垂らしながら立ち上がり、地面を蹴り、空中に跳んだ。振り向いてきたホワイトウルフの両目に刀を突き刺し、地面に転げ落ちる。背中から着地したため息が出来なくなるが、お構いなしに奴の背後に回り込んだ。

「きやがれ!!」

「グオオオオオオオオオオオ!」

ホワイトウルフは目を突かれて一歩下がるが、そこは八百の血が溜まっており足を滑らし、転んだ。

「待っていたぞ、この時を! くたばれ!」

八百は倒れてくるホワイトウルフの背中に刀を突き立てた。

そして深々と刀が刺さり、奴の身体を貫いた。

「グ、ボォォォォ」

と目と口から血を流しながら絶命した。

それを見届けた後、八百も意識を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る