第七話 『クエストの誘い』

「はぁ、快適、快適」

ただいま、校内の中庭の木のそばで寝転び黄昏ている一人の青年の姿がある。そう、八百十夜である。

東雲にモブキャラのようなセリフを吐き捨てたものの、面倒くさくなり、黄昏ることを選んだのである。

彼の左胸には銅色の星型をしたバッチがついている。これがクラスを表すものだ。クラスがあがるほど、銀、金とグレードアップしていく。ふと近くから声がした。

「あんた、何してんの?」

ふと真上から声が降ってきた。

うわぁ、面倒くさいのがきたぁ、絶対天堂だわぁ、賭けてもいいぜと内心思いつつ八百は瞑っていた目を片目だけ開けた。はい、正解。

「何って、見てわからんのか! 精神統一の最中に決まってるだろうが」

天堂の目が細められたら。

「精神統一? ただ、サボってるだけでしょうが! ほかの連中はね、皆訓練に励んでるっていうのに……」

全く、これだから真面目なやつはと八百は心底思う。魔法が身につかないと言われたヤツに何を訓練しろというのだ。

「というか、お前ってさ、そんな口調だったっけ? もっとこう、お淑(しと)やかなイメージっつーか」

返事が帰ってこないので、天堂の顔を覗くと、顔が赤く染まっていた。

ほほぅ。

「あっれぇ、もしかしてぇ、キャラ作ってた感じ? あは、ごめーん、今まで気付かなかったよぉ」

「ふん!!!」

天堂の蹴りが股間に炸裂した。

「はうっ! お、お前、これはシャレになんねぇぞ」

その一発で八百は戦闘不能になった。

しばらく中庭にマーキングするのかというほど、転げ周り、痛みがピークを越えた頃には天堂の姿はなかった。

「ふ、ふぅ作戦通りだぜ」

八百は汗を腕で拭うふりをする。俺マジでモブじゃんと、落胆する。

「さて、部屋に戻って一眠りしますか」

この学校は中央に大きな中庭があり、それを囲む様に四つの建物が建っている。その東に位置するのが学生寮である。この学校の生徒は皆、学生寮で寝泊まりしている。生徒数が少ないためか男女共同施設で、部屋は一人一部屋与えられている。

そして自分の部屋の前に到着したのだが

「なんだよ、まだ蹴り足らんのか? 厚かましい奴め」

「ちっ違うわよ! その、話があるんだけど」

先程、八百を一撃で戦闘不能にした少女が立ち塞がっていた。

怪しい。さっき、あんなに怒っていた女がまた、しれっと会いに来るか?と疑いの目を向ける。とはいえ、このまま睨んでいても拉致があかないので部屋へ招き入れることにした。

「ここで話すのもなんだから、中に入れよ」

部屋に入るなり、いきなり天堂は想定外の言葉を口走った。

「あんたさお金持ってる?」

「は? 何? お金借りに来たの?」

「違うわよ! 借りるにしても、あんたなんか、こっちから願い下げよ」

感じ悪いやつめ。

「あんたって魔法使えないでしょ?これからも」

軽く傷口を抉ってくる。

「だから武器を手に入れないといけない。でも、お金が無い。そうでしょう」

それは確かに八百も考えていたところである。だが、

「それがお前と何の関係があるんだ?」

「いい鍛冶屋を知ってるんだけど」

いやいや金無いからね。バカなの?

「この世界でお金を手にいれるには2つあるの。一つはアルバイトをする。もしくは、クエストを受けること。とはいえ、アルバイトはあんたは出来そうにないし、すると必然的にクエストを受ける事になるでしょ? それでいいクエストを手に入れたんだ。」

と、天堂から紙を渡された。


――急募! 森の魔獣ホワイトウルフの討伐。報酬は八万ユール、クマのぬいぐるみ!!


「ははーん、読めたぞお前の考え。クマちゃんのぬいぐるみが欲しいんだな」

「う、うるさいわね! あ、あまりに私の部屋が質素だから飾ってあげようと思っただけなんだから!」

──今度はツンデレキャラを確立してきやがったか? まぁそういうことにしておいてやろう

「このユールってのが、こっちの世界の単位か?」

「ええ、そうよ。八万ユールはあんたにあげるわ」

ラッキー! ってか、どんだけぬいぐるみ欲しいんだよ。

「でもよ、そもそも武器ないぞ俺」

「はい、これ。ゴミ置き場で拾ったからあげる」

と、日本刀を渡された。拾った?嘘つけ。拾ったにしては業物過ぎる。まぁ、ここはそういうことにしておいてやるか、と八百は開きかけた口を無理やり閉じる。

「サンキューな。で、いつ行くんだ?」「今からよ」

バカなの? こいつは。とさすがに八百は呆れた。

「ほら! グズグズしないの! 行くわよ十夜!」

と腕を引っ張られる。

これ以上講義しても、部屋で寝させてもらえなさそうなので、八百は諦めるを覚えた。

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