第五話 『怒りの結末』

八百は決して正義感の強い男ではない。それでも今この状況を許せなかった。

八百は敵陣に向かって、真っ直ぐ突っ込んだ。

「おお、おお、また一人やられにきたぜ」

一番前にいる男がそう言いながら刀を構えた。そして、八百が突っ込んで来るのと同時に刀を上から振り下ろした。しかし、その刀身が八百の身体に触れることはなかった。八百はそれよりも早く、男の右太腿から左肩にかけて、一直線に刀を振りぬいた。

「シッ!」

「あ、あれぇえ?」

男は何が起こったのか理解出来ていなかった。

そのまま八百は男の首を跳ねた。その後八百は敵陣から距離を取った。それと同時に男はまるで木が倒れるように、ばしゃっと血飛沫を上げながら、音をたてて無惨に倒れた。

「う、うわぁぁあ!」

また一人、刀を構えて走ってきたので八百は横に薙ぎ払い、上半身と下半身が真っ二つに分かれた。切り離された下半身だけがこちらに向かって歩いてきて目の前で倒れた。まだだ、まだ足りない。八百はそれを子猫を追い払うかのように蹴飛ばし、敵陣に向かって斬りかかろうとした。……が、それは叶わなかった。

「もうやめて!」

八百の真後ろから声がした。振り返ると薄い赤色の髪をした少女が涙を流して、こちらを見ていた。髪は腰あたりまで伸ばしてある。

「やめろだと? こいつらが何をしたか見ていなかったのか?」

「見ていたわ。でも、あなたが彼らを斬ったところで誰も救われないわ」

「救われないだと? こいつらを斬れば、さっきまで襲われてたやつは助かるだろうが!」

八百は吐き捨てるように言った。

「もう彼らに戦意はないよ」

敵陣を一瞥すると、彼らの表情は恐怖で埋め尽くされていた。あぁ、俺はこいつらと同じことしたって訳か。八百は何度も敵に斬りかかろうか迷ったが、最後にはその場に座り込み、天井を眺めていた。

それからしばらくして、試験終了のチャイムが鳴った。

結局、受験者、生徒側、合わせて死者十八名。合格者四名の結果に終わった。

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