第四話 『試験開始』

「半年に一度のペースで行われているんだ。」

八百と壱原は学校のエレベーターに乗り、地下にあるという試験会場に向かっていた。

「他の学校も同じことやってんのか?」

壱原(いちはら)は笑顔で答える。

「いや、ここだけだよ」

何かこいつの笑顔は嘘くさいんだよなぁと八百は思う。

「バトルロワイヤルって、何すんだ?」

「ん?殺し合いだよ。受験者全員の」

狂ってる。八百は笑顔で話す壱原に恐怖を覚えた。間髪入れず壱原続ける。

「着いたらすぐに試験は始まるだろうから、簡単に内容を説明しておくよ。試験時間は一時間。その時間内に生き残れば合格だ」

一時間、普通の大学生に殺し合えっていうのかよ。あのまま家で寝とけば良かったぜと八百は後悔する。

「なぁに、心配することはない。死んだところで極楽浄土に行くだけだよ」

「舞台が変わっただけで現実世界と何も変わんねぇじゃねーか!! こんな非人道的なもんに参加するなんて御免だぜ」

壱原はその回答を待ってたかの様に話す。

「別にやめてもいい。やめれば極楽浄土に行くだけだ」

「じゃあ答えは出てるぜ」

「しかし、もし仮にこのバトルに生き残り、この学園で上位にのし上がれば現世に戻る選択権を得られるのだ」

ふざけんなぁあ!! 結局こいつの思う壷じゃないか! と肩を落とすふりをする。

「ちっ、やるしかねぇじゃねーか」

そうこうしているうちに試験会場に到着した。試験会場は学校の地下に位置し、大きさは柔道場より少し広い程だ。八百はローマの世界遺産、コロッセオのように感じた。それに、地面には武器が多数散らばっている。これを使い、戦えということだろう。彼が到着したときには既に他の受験者が揃っているようだった。

「ちょっと待て三十人はいるぞ」

──なんだ?何かがおかしい。半年で二十歳未満の死者って集まるもんか?それに、死者が集められるのはこの学校だけじゃないはずだ。この学校だけに三十人集められるはずがない。

「あの野郎、まだ何か隠してやがるな」

八百はそう言って地面に落ちている刀を拾った。八百はまず、協力者を得ることを考えた。ふと、となりを見ると小柄な男は震えながらぶつぶつと何か唱えているように見えた。

「おい」

八百が声かけると

「ひっひぃぃ! は、はぃぃ」

「緊張しすぎじゃねーのか? お前、名前は?」

「ご、ご、ごめんなさいぃ! 漆原拓ですぅ」

こいつと協力して大丈夫か? と不安を隠しきれない。

「俺は八百十夜だ。協力しないか?」

「僕もお、同じことか、考えてました」

見た目の割には冷静なんだなと感じつつ、八百は作戦を伝える。

「お互い背中合わせに立って、前に来るやつを倒す」

「や、八百くんはた、た、戦えるの?」

「一応、聖心流っていう流派の師範代だ。刀も振るえる。俺は正面と横のヤツをやる。お前は俺の背中だけ守ってろ。てかお前が戦える設定なんだが、この作戦」

「大丈夫、だと思う。ぼ、僕も剣道やってるから」

人は見かけによらないということだ。

「ねぇ、八百くん。ずっと思ってたんだけど、この配置お、おかしくないかな?」

「配置?」

「う、うん。なんか十人くらいの人がまるで、軍隊みたいな隊列を組んでる」

言われてみれば確かに、である。前に4人、刀を持った男がいる。その後ろに大きな盾を持った巨漢が3人。その後ろには、5人ほど杖らしきものを持っている。

「杖って、あれですか、魔法使いか何かですか?」

八百は嘲笑する。

「これってさ、も、もしかして」

漆原が何かを言おうとしたそのとき

「試験開始一分前」

壱原の声が会場内に響いた。

「おい、集中しろ」

八百はそう言って、軽く腰を落として構えた。壱原は殺し合いって言ってたが、俺は絶対に一人も殺さん。

一時間逃げ回ってやる。

場内に試験開始前のアナウンスが流れた。それと同時に隊列を組んでた一番後ろの杖を持った男や女が一斉に何かを唱え始めた。

「まさか! マジで魔法使いか!?」

「も、問題はそこじゃないよ八百くん。これで、ハッキリしたよ」

漆原は何かに気が付いたらしい。

「なんだ? 何に気が付いたんだ?」

「こ、この人たち、この学校のせいとだよ!」

「な!? 待て、これは入学試験だぞ?なんで、生徒が介入して――」

八百はそこで壱原の罠にハマってしまっていることに気が付いた。

「なるほど、試験なんてのは名目上のことで、これが本来の目的ってわけか。俺達は生徒の訓練の一環の、スライム役ってわけか」

「ど、どうしよう? こんなの勝てっこないよ」

「あいつの思い通りにさせてたまるかよ!」

と言いつつ八百も内心かなり焦っていた。

「く、来るよ!」

漆原が震えた声で叫んだ。

それと同時に無情にも虐殺開始のチャイムが鳴る。

やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい。

既にあちらこちらで、ぎゃああと悲鳴が響き渡っている。魔法使いが呪文を唱え終わると、杖から一斉に炎が吹き出し、火の玉が飛んできた。物凄いスピードで、火の玉は受験者に激突し、次々と炎で彼らを包み込んでいく。

「あづぃいいいよぉおお! た、しゅけて――」

一人がこちらに助けを求め歩いてきたが、途中で刀で首を落された。

それはもう、この世の光景とは思えないものだった。この場所を現実世界とすればの話だが……

「おい、漆原! 構えろ!」

返事がなかった。振り返ると漆原の姿がない。一瞬、逃げたのかと思ったが、その予想は覆された。魔法使いの魔法で漆原はまるで磁石のように引き寄せられ、刀を持った男に串刺しにされた。そして他の刀を持った男達も集まってきて、次々と漆原に突き刺した。

「いったぁあいぃおぉ」

「ぎゃはははぁ! こいつおもしれぇ!」

生徒の一人が笑っている。笑っている?人を殺して何がおかしい?八百は震えが止まらなかった。これは恐怖ではない。怒りで。

間もなく漆原は絶命した。原型が残らない程に切り刻まれた後に。


―― それと同時に八百の怒りは頂点に達した。

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