第三話 『事実確認』
八百は理事長室の前にいた。彼をここまで誘った幼女はというと、到着するなり、何も言わず立ち去った。八百は何て無慈悲なんだと思いつつ、この部屋に入るか否か迷っていた。
すると、それを見透かしたかのように中から声がした。
「入っておいでよ」
親しみやすく感じたのは気の所為だろうか、八百は恐る恐るドアを開け中へ入った。すると、そこには20代半ばだろうか、スーツを着た男が一人、座ってこちらを見据えている。親しみやすいなんてとんでもない、これ以上見つめたらヤバい気がしたので八百は咄嗟(とっさ)に目をそらした。
理事長室というのは、VIP室のようなものを想像していたが、そこは質素という言葉がこの部屋のためにあるのではないかという程、質素であった。ここは牢獄ではないか? と錯覚してしまうほどだった。
「そんなところに突っ立ってないでもっと近くに来たらどうだい?」
八百はそれに従い部屋を見渡しながら、近づいた。部屋には、八百の正面に机と椅子があるだけだった。そこに一人の男が座っている。
「あんたが理事長か?」
「いかにも。私は壱原朱雀(いちはらすざく)だ。この学園の理事長をしている。君にはいくつか、話さないといけない。ところで君はこの状況をどのように理解しているのかな?」
状況?んなもんこっちが知りたいんだよ!と思いながらも、八百は素直に答えることにした。
「俺は確かトラックに轢かれた。そして重症を負ったはずだ。だが今はこうして怪我一つなく学校らしき所にいる。その矛盾と格闘中といったところだ」
「ふむ。一つ一つ確認していこう。君はトラックに轢かれた。うん、その通りだよ。そして何故かこの学園にいる。それは君が死んだからだ。そして……」
しんだ?なんだそれ?八百は死んだという言葉を理解出来なかった。いや、人間が生命活動を終えたときに用いる言葉という理解はあるが。
「ちょっと待て」
八百はたまらず壱原の言葉を遮(さえぎ)った。
「あんた何言ってんだ? つまりここは天国ですか? 」
と半分笑いながら尋ねる。
「それは少し違うね。ここは現世と極楽浄土の間。別空間に位置することになるね」
どうやら、こいつは頭がおかしいと結論付けた。
「分かりやすく説明してくれ」
その質問を待っていたかのように壱原は続ける。
「無理もない。現世では知らせることが許されない事実だからね。ここは、20歳未満の人間が何らかの理由で命を落とした場合、強制的に送還される場所なんだ」
八百が唖然としていることを他所に男は話しを続ける。
「ここは魔法都市神部(こうべ)。死後の世界という訳だ。ここまでで質問は?」
ここまでって全然わかんねーよ!てかお前絶対20歳越えてんだろ!
「今は越えているが、16のときにこの世界に来たからね」
どうやらこいつは心を読めるらしい。
とそこだけ納得した。
「で、これからどうするんだ?」
「うん、そうだね。本題に入らせてもらうよ。死者は一度この世界にくるというのは、さっき話した通りだ。しかし、全員が第二の人生を送れるわけではない。」
「確かここは高校だったな。つまり……」
壱原の口角が薄気味悪く上がった。
「お察しの通り入学試験を受けてもらう」
「普通、年齢的に大学じゃないのか?」
すると今度は壱原は残念そうな顔をして答えた。
「ここは君が思うほど設備は整っていないんだ。確かに死者は毎日沢山やってくるが、試験に合格できるのはごくわずかなんだ。魔法都市というだけあって、魔法を使うが毎日死人も出る。簡単にいうと人手不足なんだよ。」
「魔法で先生とかを作っちまえばいいんじゃないか?」
壱原は鼻で笑った。ムカつくと八百は嫌悪感を示す。
「おっと、失礼。魔法は万能じゃない。人形の存在は作れるが、有能なものは作れないだろうね」
「それはもういいわ。で、試験ってのは実際何をするんだ?」
壱原は鋭く笑った。八百は壱原の目が不気味に光ったように見えた。
「試験はシンプルだよ。受験者全員による、バトルロワイヤルだ」
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