流星群と向日葵の春

岩井喬

第1話

「あの……その『好き』って、どういう意味?」


 僕は顔を上げ、ポカンとするしかなかった。それ以上に、目の前の彼女は困惑しているようだ。

 正直、勝負は五分五分だった。OKを貰えるにしろ断られるにしろ、どちらの覚悟もできていた。しかし、まさか返答が『どういう意味?』とは、思ってもみなかった。

 幸福感に包まれるか、冷や水を浴びせかけられるか、普通は二者択一だろう。

 しかし認めるでもなく断るでもなく、純粋にポカンとした顔で見つめられるとは。

 これではまるで、ぬるま湯に浸かっているようだ。


 夕日の差す、橙色に輝く教室。僕と彼女以外は誰もいない。それでなかなか言葉を見つけられずにいる僕の姿を見れば、答えがYESかNOのどちらかであることは明白なはずだ。

 彼女から見た自分の姿を想像する。確かに僕――春島優希は、偶然彼女の『護衛係』に選ばれた無個性男子くらいにしか見られていなかっただろう。加えて彼女――竹園エリは、去年までイギリスで生活していた。日本人の放つ『曖昧な雰囲気』を感知できなかったのかもしれない。


 それでも。それでもだ。

 僕は『好きです』とまでは言ったのだ。『つき合ってください』とはまだ言っていないけれど。それでも彼女が目を見開き、無邪気に疑問を呈してるところを見ると、僕の気持ちは伝わりきっていないらしい。


 エリは僕から目を逸らし、


「優希くん、そろそろ部活、始まっちゃうよ?」

「え? あ、ああ、そうだね」


 するとエリは自分の机から鞄を取り、


「それじゃ、行きましょう」


 と、何事もなかったかのように僕に声をかけた。

 気まずい時間の、なんと呆気ない終わり方だろうか。


 こうして僕たちは、いつもと何ら変わることなく、廊下に出て屋上への階段へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る