努力依存性

努力は素晴らしい。

この世界で唯一否定されることの無いもの。

すべからく価値として評価され、誠実に打ち込めば打ち込むほど人を惹きつける。動かすことが困難な他人の心を、容易に動かす。

普遍的な正義を指すのなら、努力以外に存在しない。






本当にそうだろうか。






「あなたは本当に凄いね」

「努力を続けるって格好いい」

「そういう人が夢を叶えるんだよ」


結果としてそうだろう。夢とは並の生活で手が届かないから夢。努力は苦しいと皆が知っているから羨望され、そして届いた姿を想像され輝いて見える。

だが、並外れた努力をした人なら到達するひとつの答えが存在する。


努力からは逃げられない。


例えば陸上選手として走り続けた青春時代。夢だけを追う事に夢中で自他共に満足をする。

しかし、努力の果てに必ず限界はある。天井に頭を当てた者は、努力の価値を見いだせなくなる。当たり前だ。羽のない鳥がいくら羽ばたいても飛べないように、不可能を感じた人が手を伸ばすなんて死ぬほど辛い。


なぜ、努力から逃げられないのか。


努力は正義であり、それを手にした人は知っている。努力を無くした人生の恐怖。羨望は努力の純度が高いほど落差を生む。

他人の評価を失う。自分の評価を失う。

より理想に近付いた人であれば、贖罪を強いられることもあるだろう。


それが耐えられない。


努力は苦しい。しかし、努力を止めた時の苦しさを想像するだけで足を止められない。

これ以上の板挟みはない。努力とは免罪符なのだ。手にしたが最後、手放すことが手にするより圧倒的に難しくなる。


だから、無駄な努力を重ねる。


見慣れた天井を触り続け、遥か高みに昇る同士をドブの中から見上げ続ける。目を離すなんて出来ない。下を向いてしまうと、何かが零れ落ちる。


これを理解できない者達からの視線で、人として立ち直れないほどの刃物を突き立てられる。だからこそこの言葉が最も正しい。




『努力依存性』




努力依存性の人間から、夢を追う人へ言葉を送れるならばたった一つ。


「努力はするな」


楽しんでいい。

逃げていい。

気まぐれに飲まれ、遊びたい時に遊んで、そのついでに夢を追うことが人として充実出来る。

努力は充実から最も遠い。人生を掛けるなんて以ての外だ。今という時間を犠牲にするほどの価値はなく、楽しいを重ねる事の大事さに比べるとゴミのようなものだ。


そう理解したところで、私達は逃げられない。

どうか、君達がこちらの世界に踏み込まないことを願う。

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