『なんかファンタジー』彩桃美珠お題

開いた口が塞がらないとはこの事なのだろう。今の状況を何一つ理解できない。


「ねぇもっちー……」

「ん?」

「ここ、どこ?」

「待って、いま考えてる」


辺り一面に広がる平原。建物も人もなく、けもの道のような手入れのされていない道路に立たされていた。


家で勉強していたはずなのに……。


気がついたらいつの間にか立っていた。親友のもっちーが一緒にいるのもよくわからないけど、混乱し過ぎて逆に落ち着いているのだけはわかる。


「え〜っと、ももさ」

「え?」

「服ヤバくない?」

「…………ズボンがスカートになってる」

「え、そこ?」


へへへっと笑いあってみる。もっちーが言いたいのは、私の服(どころか彼女の服も)が妙な民族衣装のような形状に変化していたからだ。まるで冒険家のような……。




あ、夢かなこれ?



そうと分かれば、なんだかウキウキしてきた。魔法も使えるかもしれないし、敵を倒してレベルアップもするかも。私の見た目はまんま魔法使いだし、試してみよう。


「ねえねえ、もっちー!」

「待って、なんか剣落ちて……」

「ん〜ファイア!」

「あっつぅうううう!!!??」


ガスバーナーくらいの勢いで飛び出した炎の玉がもっちーのマントに穴を空けた。

さすがに焦ったもっちーは涙目で私の胸ぐらを掴む。


「あ、えっごめん! 本当に出ちゃった!」

「殺す気!? 少しは考えてやってよ

ももの馬鹿! アホー!」

「あ、なんかいる! そこの茂み!」

「えぇええ!?」


次から次へと驚かされて、珍しくもっちーの方が慌ててしまっている。夢だと先に気付いた私は少し余裕があってなんだか優越感を感じていた。

ガサガサと蠢く茂み。ついでに落ちてる剣でもっちーを守ってあげよう。背中に隠れている親友はまだ戦えないのだ。


(あぁ、もっちーにここまで頼られるなんて、ずっと夢でもいいなぁ)


いつでも出てこいと構えた瞬間。茂みのケモノは姿を現した。


「私やで」


黒光りするマッチョな身体を持った男が出てきた。金色のビキニパンツに『タランティーノ・田中・フォーマルナイツ』と書かれている。


うん、敵だ。


「ファイヤー(棒)」

「ンンンんんんんんーー!!!!!」


苛立ちの業火に焼かれ塵となったタランティーノを見送り、私はもっちーの手を取って向き合った。


「もっちー、これ夢だから」

「え、そうなの?」

「うん、早く帰ろ。すぐ、いま、最速で」


余りにも気持ちの悪い生き物を見たせいで私の思考は冷えきってしまった。



さよならファンタジーよ。

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