『うん』『風船』抹茶、アヤリンお題
生まれながらに決められているものが一つだけあると思う。
それは『運』。
小さな所だと当たり付きのアイス。大きな所だと出会い。自分の行動に左右されない不安定な部分が、人には割り振られている。
私自身の運なんてわかりはしないものの、ピエロとして仕事をしているとみんなの『運』が嫌でも目に入ってしまう。
サーカスが楽しみな子供たちは純粋無垢な笑顔で私に近寄ってくる。数に限りがある風船を貰おうと我先にと声を上げてアピールするのだ。もちろん、雑多な中から渡してしまうと納得しない子が出るため列を作るのだけど、そうするといつも一人の女の子に注目してしまう。
この地域では珍しい、黒髪の少女。私たちがここへやって来て数週間、欠かさず毎日来てくれる女の子だ。
誰よりも早く来て心から楽しそうに微笑む彼女は、誰よりも運がない。それを引き寄せる力もない。毎回、風船を貰う事ができない。
努力と言うべきか、チャンスは人より多い。何せ、誰よりも多く見に来てくれているのだ。
多くの子供たちのもとへ、風船を手にした私は今日も幸せを配る。
目の端に例の少女を見つけ、定位置について両手を上げた。陽気なステップを踏んで列が出来るのを待つ。
(少し遠いな)
片手で持てるだけの風船は僅かだ。今日こそは手にしてくれることを密かに祈りつつ、小さな妖精さん達と握手をしていった。
6……。
5……。
4……。
3……。
2……。
少女の前で、最後のひとつが配られる。
また、駄目だった。もう何度目かと知れない残念そうな微笑み。貰えないと初めから悟っていたような仕草。それでも手に入れたい、選ばれたいと足掻く心。
彼女自身、理解しているのであろう。深い意味もなく、『運がないなぁ』という程度のものかもしれない。しかし、あの表情はすでに諦めている。
後ろ手を繋ぎ、嬉しそうにバラけていく子供たちの元へと紛れ込もうとする。私の事なんて見ることもなく。
いつもなら、見送るだけのピエロだけど。
「素敵な妖精さん」
彼女は足を止め、こちらに向き直る。キョトンとした顔は真っ直ぐに私の目を見つめていた。
私は子供たちに幸せを運ぶ道化なのだ。それはそれは小さなものかも知れないが、彼女にとって不思議な出会いとなればいい。
マジックで取り出した大きな飴玉を指先に乗せて、僅かに煌めく少女の目に映す。
キミのこの瞬間に、少しの運と幸福を。
「風船はもうないけど、お嬢さん。甘い飴は好きかい?」
「…………うん」
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