ポジティブレインの魔法の言葉

俺の幼馴染、藤堂 礼印レインはポジティブだ。それはもう圧倒的に。

そして俺はネガティブ男。何に対しても後ろ向きに捕らえてしまいがちな性格が自分でも辛い。


そんな俺たちは、今日もまた相談事のために公園で話していた。


「晴れた日は木漏れ日が気持ちいいわね!」

「そうかい、俺はもう疲れ過ぎてそんなこと気にしてられないよ……」

「仕事かしら?」

「そう、完全に手に負えないくらい仕事回されちゃってさ……いっそ辞めてしまおうかと思ってるんだ」


断れない系社畜の俺は、会社でいいように扱われる。そんな毎日に耐えられなくなっていた。


「それは勿体ないわね」

「確かにさ、正社員になれたのはマグレだしそれを失うなんて……」

「そうじゃないわ」

「?」

「その山積みの仕事が勿体ないってこと」

「なんで?」

「人が成長するのは、無理かもってほどの『壁』がある時だもの。あなたは大量の経験値を前にしてるってことよ」


言い得て妙。そんな見方もあるのか。だけど、それはクリア出来なければ何の意味もない。


「もちろん、辞めたければ辞めればいいわ。人生長いのだもの。その決断が次に繋がるかもしれない。だけど、どうしようもない状況で何クソって足掻くか、全部諦めるかで全然違うのよ。足掻く人は僅かでも経験を詰める。諦めた人は次も同じことをする。これは大きな差よ?」

「俺だって逃げたいわけじゃない……ただ……どうしようもないだろ」

「ん〜、多分だけど人ってさ、駄目な理由を探すのが一番上手い生き物なのよ」

「……」

「だから、ご飯食べましょう!」

「は??」


レインは立ち上がって俺の手を掴む。まん丸で自信のある瞳を煌めかせ、長い淀みのない黒髪を風になびかせた。


「お腹いっぱい食べるの! 満腹になったら幸せでしょ? その後に何から手をつけるか一緒に考えましょう!」

「お、おいっ」

「大丈夫! 私がいるもの! 駄目だった時は養ってあげるわ!」

「そういう問題じゃ……」


駆け出す彼女の足は軽く、重く錆び付いた俺の身体をふわりと浮かせる。

「あっ」と振り返るレインは、俺の鼻スレスレのところまで指を突き付けた。


「私は諦めない人が一番カッコイイと思うの。就活で最後まで諦めなかったあなたは最高に輝いていたわ!」

「それは……ありがと」

「上を向きなさい。下を向いていたら鳥のフンも避けられないわ!」

「ふふっ、なんだよそれ」


結局、彼女の暴力的な前向きさにはまだ勝てたことがない。今回も救われてしまうのだろうな。

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