明晰夢

明晰夢という言葉を知っているだろうか。夢の中で、これは夢だという意識することが出来る現象だ。何を隠そう、睡眠を趣味とする俺は明晰夢を自在に作り出すことが出来る。


今日も今日とて俺はそこへ旅立とうとしていた。


「カフェイン、よし……」


エナジードリンクを一気飲みした俺は、すぐさま床に就く。熟睡は夢自体を破壊してしまう為なんとしても避けなければならない。


まず目を瞑り、瞼の裏側が真下に落ちていくイメージを作ることで眠気を誘うのだ。そして意識が落ちる寸前で次のイメージ。浮かび上がるように立ち上がり、窓から外の景色を思い浮かべる。


よし、構築完了。


目に見えないところは後で作れる。まずは窓から飛び降りて身体から離れないといけない。身体が近くにあると、夢から脱出するイメージが作りにくいからだ。

ここまでくれば後は景色をバックに両手を前に出し、拳を握っては広げを繰り返す。だんだん鮮明になってくれば成功だ。


「今日も問題なく入れたな」


俺の目の前には通っている高校が出現している。今日の設定は『授業中に巨大な敵が出てきて、隠れた能力者である俺がみんなを守る為に立ち上がる』だ。

ただ難しいのは、人は思い通りに出せない。何人かはいけるが、クラスメイト全員をじっとさせられないのだ。数名どこかへフラフラ行ってしまう。まだまだ改善の余地はあるってことだな。


「きた……!」


三階の教室から窓の外を見つめると、鬼のような巨人が校門を破壊する。怯えまどう生徒、腰を抜かした先生。完璧だ。

俺は立ち上がり、窓から飛び降りる。


「全く……隠していたんだがな」


身体から高圧電流が溢れ出て、空へ掲げた右手の上に収縮していく。命名『紫電宝玉』。


「ん?…………んんん!?」


ここで気付く。巨人の後ろの黒い影に。


「うわっ、今日は早いだろ!」


黒い影の塊。命名『死神』。明晰夢を悪夢に変える化け物だ。

こいつはとにかく早い。動きもなくひたすら追いかけてきて、捕まると頭を握られ地面に叩きつけられる。そして、真っ黒な世界に連れ去られ延々と逃げさせられてしまう。


「くそ! いいところなのに!」


徐々に迫る死神。俺は目を瞑り、空へ身体が溶けていくイメージを固める。これが夢からの離脱方法だ。




間に合え………………!!






















「はっ!」


布団から起き上がった俺は、汗だくの身体を拭う。

数秒の沈黙をへて、とりあえず口を開いた。


「なんか、変な夢見てた気がする」





大抵、内容は覚えていないのだ。







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