『冷やし坦々パクチー麺』今日子ちゃんお題。

六畳の和室。その中央にある机には、パクチーが大量に乗った湯気が立ち上る熱々の坦々麺と、妻の書き置きが残されていた。

買い物に出た妻の書き置きにはこう書かれている。



『あなたは私が帰るまでに、絶対にこのパクチー坦々麺を食べ切る事が出来ません。もし、食べ切る事が出来たら私の高級プリンを譲ってあげます。』



僕と妻は、根っからのミステリー好きである。僕の仕事が休みの日、こうした真似事遊びは割と頻繁にある。


さて、考えよう。どうして僕がこのパクチー坦々麺を食べられないのかを。

まずは普通に食べられない理由。


僕が度が過ぎた猫舌であること。

辛い物がかなり苦手であること。

パクチーが嫌いであること。


引っ掻かるのは。

『帰ってくるまで』

『食べ切る』

この二つに罠が隠されている可能性がある。


すでに家の前に隠れている可能性。

蟹などの『殻』がある可能性。


それより、いつもは別の部屋にいるペットのクリスが気になる。


「くぅ〜ん」


ビアデッドコリーのクリスはお腹が減っているらしく、おこぼれを貰おうとウロウロしている。クリスが邪魔をして一口でも食べてしまえば、『食べ切る』に反するという事なのだろうか?

こう言っちゃなんだが、妻は馬鹿だ。そこまで考えるのが限界だろう。


ならば簡単な話だ。

・まずカーテンを閉めてこちらの動向を隠す。

・麺の中に食べられない殻などが無いことを確認する。

・氷を大量に入れ、限界まで冷して熱と辛味を攻略する。

・鼻に洗濯バサミを付けてその匂いを攻略する。


さらに、クリスに奪われないように延々と机の周りを歩きながら、飲み物を飲むように限界を越えた速度で食事を開始した。


どうだ。これがこの謎の攻略法だ。

君はミステリー作家にはなれないのだよ。






あまりにも味わいが無い坦々麺を完食し、クリスに餌をやって居間でくつろいでいると、玄関から妻が帰ってくる音が聞こえた。


「ただいま〜」

「おかえり。ほら見てくて、スープ一滴残さず完食したぞ」


僕は器を妻に差し出すと、彼女はフムフムと頷いて机を指さした。


「裏、読んだ?」

「裏?」


彼女が書いたメモ書きの裏。そんなもの読んでいるわけない。

早速メモを掴みあげて裏面に目を通す。すると、そこには一言だけ書かれていた。



『あなたが食べたのはパクチー坦々麺です。残念でした。』



振り向くと、妻はニマァっとイタズラな笑みを浮かべていた。


「正解でしょ?」





イラぁ。





結局、僕は妻の高級プリンを無理やり奪って食べた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る