ナツの遊び
何回目だったかな?
頭の中の日記帳を開いてみる。このページ.....違う。もっと前だ。うーん。あ、見つかった。まだあるはず。
そうだそうだ。これで三度目だ。
彼と手を繋ぐのは。
私の手をグッと握りしめた彼の表情は緊張気味。微かに唇に力が入って『むむっ』とした顔だ。
余裕ぶって話してたけどわかるよ? 怖いよね。緊張するよね。私もそうだもん。
それにしても、高校三年生になった彼の手。細くもなく、ゴツゴツでもない。案外柔らかくて暖かくて、小説は嘘つきなんだな。
おっといけない、考え事してたら怒られちゃうね。やだなぁ、そんなに強く見ないでよ。私たち、まだ始まってすらないんだよ?
「もっと.....近づいてよ」
「はいはい」
彼の要望に応えて近づく。
今日は近いなぁ.....。目、見ないでってば。
彼の息遣いが聞こえてきた。吸う時より、吐く時の方がいいね。なんか耳に残るもの。
きっと私の息も聞こえている。私とあなたの吐息が触れ合って、お互いの耳に入り込む。なんだか一つになったみたいでおかしな感じ。
さ、次はどうするの?
目を瞑ろうか?
耳を塞ごうか?
いまだけはイイナリになってあげる。
約束、だもんね。
私たちに触れている机がギギっと鉄の声をあげる。教室の机ってなんでこううるさいのかしら。静かにしてよ。気になるとタイミング逃しちゃうじゃない。
私が机に気を取られている一瞬の隙をついて、彼は空いていたもう片方の手を伸ばしてきた。
ま、まってよ.....。そんなのだめ。
なんとかそのイタズラな手を振りほどくと、彼はさらに『むむむっ』と顔を歪ませた。
危ない危ない。そんな強引なことしないでよ。なに焦ってるんだか。
うん、はじめよっか?
もう、きていいよ。
「レディゴー!」
バァンッ!!
「ナツミの勝ちー!」
彼の汗ばんだ手を机に叩きつけた私は、無事に『クラス別腕相撲大会』の三連覇を成し遂げた。
悶絶しているタクヤは床に転がっている。
しっかりしてよね。いっつも終わるの早いんだから。
「タクヤだっさ。得意な距離もらった上に両手使おうとして負けるとか」
「うるせー! ナツがいなきゃ俺が三連覇してるはずなんだぞ!」
毎年タクヤと当たったもんね。
「来年はまけねぇぞ!」
「来年?」
年一イベントで今は三年生。
来年もってことは、わかってるの?
タクヤは顔を赤らめてそっぽを向いた。
まぁ、正直だこと。
そっか、来年ね。
「待っててあげるよ」
私たち、まだ始まってすらいないもんね。
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