1000文字短編集
琴野 音
橋本家の事件簿
「これより、家族会議を行う」
橋本家長男、橋本勇は宣言する。
そこ、勇の部屋には母と妹が正座をしており、何事かと地に足が着かぬまま勇の議題を待ちわびていた。
「本日午後五時から六時の間、俺の部屋に侵入し、あまつさえ扇風機を付けっぱなしにしたまま立ち去った者がいる」
「おにぃが消し忘れたんじゃない?」
妹は何だそんなことかと、さも当たり前のように責任を兄に投げ出した。
しかし、勇にはアリバイがあった。
「俺はこの扇風機を使ってはいない。壊れかけているせいか付けるとうるさいからだ。そして何より、俺は『付けっぱなし』が納豆より大嫌いだ」
勇は、納豆が食べられなかった。
「従って、俺がポチのエサを買いに行っていた一時間。ここへ侵入出来るのは二人。そう、君たちだ」
しかし、妹にはアリバイがあった。
「あたしは映画を観てて部屋から出てないよ。友達と電話しながら自宅鑑賞会してたから、なんなら友達に確認してくれていい」
「ふむ.....」
だとすると、残るは母だ。
しかし、母にはアリバイがあった。
「お母さんはお隣さんとずっと話してたわよ? 勇は横通ったからわかるよね? ね?」
「ふむ.....」
おどおどと申し立てる母。怪しい。とは思えない。気弱な性格のなのだ。それに、実際に談話中の母を目撃している。
勇は唸る。この家は三人家族。最悪の自体が脳裏を過ぎったのだ。
「部屋のクローゼットには、屋根裏へ繋がる天井蓋がついている。そして、屋根裏はかなりの広さだ」
「ま、まさか.........」
「不法侵入者!?」
勇は引き出しから災害時用のライトを取り出すと、二人を下がらせた。
「俺が見てこよう」
「おにぃ.....」
「き、気をつけてね.....」
もはや自分だけの問題ではない。
勇は天井蓋に手をかけ、心を決めて押し開く。
その時、誰も触れていない部屋の扉が開こうとしていた。
勇は振り返り、母と妹を庇うように立ち塞がる。
「誰だ!」
扉を開けて入ってきた輩が姿を現す。
「ふんす、ふんす、ふんす.....」
「.......ポチ」
扉は閉まっていた。しかし、ポチは二本足で立って器用にドアノブを回したのだ。
そして目指すは、窓側にある買い置きのドッグフード。
一袋を咥え、そそくさと退散していくその道のりは、扇風機の足の上だった。
ポチッ.......。
ヴィ〜〜〜ンカラカラカラ。
逃走済みの犯人を見送り、妹は一言。
「ポチだけに.....」
橋本家は、今日も平和であった。
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