愛する人 3

レストランに香水のキツい匂いが立ち込める。

姿を確認しなくても誰が来たのか?わかった。

・・・・・・・・・マリアだ。



室内に入ると、


「朝食、早く持ってきてよ」


従業員に偉そうに指図すると、空いてる席についた。



「♪~♪~」


鼻歌を歌いながら、外の景色を眺めている。



僕はその様子を眺めていた。

姿はあの時のままなのに、性格はまるで別人。

何があったのだろう?




僕の視線に気づいたのか?

マリアがこちらを振り向く。



「何見てんの?もしかして私の事が気になるとか?・・・・・・・・アハハハ」


「そんなんじゃないよ」


以前のマリアなら俺と目が合う事もなければ、簡単にそんな事を言うキャラでもなかた。

それに笑い声なんて一度も聞いたことがない。




俺ノ知ッテルマリアガ居ナイ




頭の中でぐるぐるとその言葉が駆け巡る。



「遅いじゃない!何分待ったと思ってるの?」


「卵は半熟って毎日言ってるのに!」


「スープ熱すぎ!やけどしたらどうしてくれるの?!」


「私に逆らえばどうなるかわかってる?すぐに殺す事だって出来るんだからね!」



そんな罵声を聞きながら、レストランをあとにした。

毎日お馴染みの光景。


以前のマリアはそんな事言う子じゃなかったのに。

人が変わってしまった。


準備を整え、用意された車へと乗り込む。

俺とマリアが同じ車に乗り込み、ハヤトと係員は別の車に乗る。

果たしてハヤトは使えるのだろうか?疑問に思う所だ。



車内はあっという間にマリアの香水の匂いで充満された。

俺はその匂いに酔いつつ、ガラス越しに写ったマリアの姿を眺める。

座席にだらしなく足を組みながら座りつつ、ゴテゴテに塗られたネイルをイジる姿はまるで別人。

短期間に何が起こったのだろうか。



「はぁ~めんどくさ。さっさと終わらせちゃおうね、涼」


・・・・マリアはそんな事を言う子じゃなかったのに。




目的地へ着くと、迎えの人間が立っていた。

頭を下げる校長や教員を横目に、デカイ態度でスタスタと進んでいく。



「早く案内しなさい。ダラダラしてたら殺すわよ」


言動や行動がミカに似ている。

あのマリアがあんな下衆に成り下がるなんて。


俺は黙ってマリアの後ろ姿を眺めていた。

頭の中でポロポロとマリアの記憶が崩れていく。

身体がダルイ。

身体が磁石みたいに地面に引き寄せられる感覚だ。

そしてマリアの記憶も、俺の足から地面へとゆっくりと流れていく感覚に襲わた。



溶ケテ行ク。



大事な記憶が俺の足から地面へとドクドクと流れていく。

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