仮面に隠された本当の顔 8

「私が連れて行くから、皆は作業してて」


周りの人達に指示を出すと、僕に手招きをし


「こっちよ、ついてきて」


どこかへ連れて行こうとする。



何処の誰だかわからない僕を拘束もせず、女性一人で何処かに連れて行くつもりなのか?

危機管理が甘いというのか、それともそれがこの国らしさなのか・・・・。



「あの・・・・・、両手を縄で縛るとかしても大丈夫ですよ。

女性一人じゃ不安だろうし、足さえ自由にしてくれれば歩けますから」


いつもの良い子ちゃんモード開始。

すると女は振り返り、鼻で笑いながら



「別に縛る必要なんてないし。

アンタ私の事ナメてるの?私はそこら辺の男どもより強い」


そう言い、手に持った槍を僕に突き刺す。



いやいやいや!!!!槍って!!!

時代錯誤も甚だしい。


僕の両腕には漆黒の翼がある。

本気を出せば槍なんて簡単にへし折る事だって出来る。

槍を目の前に突き出された所でビビったりしないけど。

・・・・・だけど今は良い子ちゃんモード中。



「はは、そうでしたか。それは失礼しました」


爽やかにかわす。

こうすれば大体の人間は僕の事を =感じの良い人 と思ってくれる。

人間を転がすなんて簡単だよ。




女はしばらく黙って僕を見つめたあと


「この国では嘘は通用しない。全部バレちゃうからね、逃げるなら今のうちだよ。

まぁ私から逃げ切るなんて不可能だと思うけど」



憎たらしい笑顔を僕に向けたあと、クルっと前を向きまたスタスタと歩き始める。

どこから出てくるんだ、その気の強さは。


早見さんは土の国の人間は純粋とか言ってなかったっけ?

目の前に居る女は凄ぇー憎たらしいんだけど。


って危ない危ない。

今は良い子の仮面をかぶっていなければいけないんだった。

本心は心の奥底にしまったまま。

今までだって本音も本心も人前で出したことなんてなかった。

時代錯誤で馬鹿で純粋なこの国の人間を転がすなんて簡単だよ。

作戦は成功だな。もう目に見えている。

あぁこの国じゃ僕死ねないんだ。



女の後をついていく。


あっという間に目の前には国王が住んでいるであろう城にたどり着いた。

相変わらず僕は拘束もされないまま、ボディーチェックもなしであっさり通される。

危機感というものがこの国にはないのか・・・・・。



「例の人物を連れてきたわ。準備は出来てる?」


女は兵士らしき人物に声をかける。

すると兵士は


「準備は出来ております」


女に向かって敬礼をした。



タメ口で話しかけ敬礼をしている所を見ると、それなりの地位にでも着いているのだろうか。

槍と盾を持った女が役職とはね。

他国に攻め込まれたら、アッサリこの国は滅んでしまうよ。




「まずは貴方が嘘をついていないか?調べるわね。この部屋に入って」


扉を開けた先に見えた物は・・・・・・・・・何もなかった。

椅子も机も何もない。

空っぽの室内。



「・・・・・・」


とりあえず部屋の中に入る。

ここで立ち話でもするつもりなのか?



「最後に何か言いたい事はある?本当は嘘つきました。ごめんなさいとか」


女は意地悪そうな顔をしてこちらを見ていた。

根から歪んでいるのか、こいつは。



「何もないですよ。僕は何も嘘をついていない」


そんな挑発になんて乗らないよ。

僕は爽やかに微笑み返す。



「そう。皆そう言うわ。でもね、嘘ついてもバレちゃうの。

おやすみなさい。名無し君」



女はニヤリと笑うと扉を閉めた。

僕だけが何もない室内に取り残される。

拷問でもするつもりなのか?

拷問した所で隠してる事なんて何もないよ。

そっか。吐くことがないからそのまま拷問され続けて死ねるのかもね。



プシュー。

どこからか空気が流れる音が聞こえる。

見上げると天井から真っ白い煙が立ち込めていた。


ガス?

窒息させるつもりなのか?



僕はぼんやりそのガスが部屋に充満されるのをただ見ていた。

そこで記憶は強制的に途切れる。



何が起こったって怖くないわ。

僕はもう死んだんだ。

マンションの4階から飛び降りた時から。

ん?本当にそう思ってる?

あの時の僕は、本当に4階から落ちれば死ねるって思っていたのかな?

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