仮面に隠された本当の顔 7



土の国へ向かうまでは、マスターにかくまってもらっていた。

毎日僕のためだけに運ばれてくる大量の食料。

僕はそれを食べながら、ただ時間をダラダラ過ごす。


詳しい作戦については聞かない事にした。

万が一、土の国へ逃げ込む前に捕まり、拷問にかけられた時うっかり喋ってしまわないようにという僕なりの配慮から。

僕自体この組織の人間の一人という訳でもないし、僕の任務は土の王に漆黒の翼を見せ、早見さんの仲間の言葉を信じてもらうよう仕向けるだけ。

ただの駒の1つでしかないんだ。



荷物の中に紛れ込む前日。

マスターは大量の食料を僕が入る予定の箱に敷き詰めていた。


「これだけあれば足りるかな・・・・・・・、いやまだ足りない」


ついに僕が入るスペースすら無くなってしまう。



「そこまでやらなくても大丈夫ですよ。

土の王の前で漆黒の翼が起動出来るくらいの体力が残っていればいいのだから。

フルにする必要はないんです」



僕は笑う。もう良い子でいる必要はここではない。



「そういう訳にはいかない。ハヤト君には生き残って欲しい」


マスターは僕の方を見ず、相変わらず食料をギュウギュウに敷き詰めている。



別にそこまでしなくて良いのに。

壊れてしまってもいいんだ。

いやむしろ壊れてしまえ。



箱の中に入ってしまえば、土の国へ着くまで自分から出ようとはしないだろう。

その間、もし食料が切れてしまい、漆黒の翼に体の栄養を骨の髄まで抜き取られ干からびても、

それが運命と割り切り、何も怨んだりなんてしないのに。




箱に入る直前、マスターは僕の右腕をギュッと握った。、


「土の国へ無事たどり着き、王に漆黒の翼を見せた後、君は自由だ。

土の国に匿ってもらう良い。もうこの国に戻ってきてはいけないよ。

好きな事をして伸び伸びと暮らしなさい」



たった2週間、一緒に暮らしただけの僕に、どうしてそんな言葉を投げかけたのか。

わけがわからないよ。

貴方が僕の何を知れたのだろうか。



「今までかくまってくれてありがとうございました」


頭を深く下げると、荷物の中に入る。

何もしゃべりたくなかった。先の事なんてわからないさ。


箱に蓋をした後は、早見さんがなんとかしてくれるんだろう。

僕は何も出来ない、無力なただの駒。


目をつぶる。

土の国へ着くまで、何もする事はない。

少し眠ろう。しばしの休息だ。


箱の中にはどれくらい入っていたのだろうか?全くわからない。

箱の重量+中にぎっしり敷き詰められた食料+僕の体重。

人の手では簡単に持ち上げる事が出来ないであろうこの箱は、開封され中身を調べられる事はなく丁寧に扱われていた。

これは早見さんのおかげなのかな?


お陰様で居心地はよく、お腹が空けば近くにある食料に手を伸ばし、たまに漆黒の翼を起動した後はただひたすら眠るだけ。

どんな夢を見たのかなんて全く覚えていない。

たいした夢でもなかったんだろう。



やがて箱の外から人の声が聞こえてくる。

土の国に着いたのだろうか。

この何もない暗闇との生活ももう終わりか。

手を伸ばすとまだ食料はあった。

・・・・・マスター入れすぎだよ。

掴んだパンを急いで食べたあと、大きく深呼吸をした。



さてと、僕の出番だ。

仮面を被らなくちゃ。



端の方からゆっくり箱が開封される。

そこから漏れてくる眩しい光。

目がくらみそうだ。



足元からゆっくり箱は開封されていく。

足元にあるのはからになった食料の袋。

それが見えたであろう、外の人達は何やらガヤガヤ騒ぎ始めた。

ある程度箱が開くとそこで手を止め、誰か人を呼びに行ったみたいで放置された。

そりゃそうだ。

輸入されてきたと思っていた箱の中はゴミだらけ。

警戒するのも無理ない。



大量の足音とゴチャゴチャした声が聞こえてくる。

そろそろ始まるな。

良い子を演じて、王の所まで行かなければ。




箱が全て開封され、外を覗き込むとそこにはたくさんの人だかりができていた。

民族のような服に顔にはペイントがされている。

着飾った人間なんて一人も居ない。

手前に居る人間は盾と槍を持っていた。

まさに早見さんがいっていた土の国の話そのもの。

・・・・・土の国に来れたんだ。



「僕はこの国の王様にお話したい事があり、水の国から来ました。

水の国は今大変な事になっています。

お願いします。王様と先に来た仲間に会わせて下さい。お願いします」



早見さんの話によると単純に素直に行動すれば、彼らは信じてくれる。

僕は目の前に居る人達に土下座し頭を下げた。



ガヤガヤと相談する声が聞こえる。

おかしいな。単純な奴らだから信じてくれるって言ってなかったっけ?

どれくらい時間が過ぎたのか。



ペタペタと足音が響き、僕の頭の隣で止まる。


「アンタが本当に田中の仲間かどうかはすぐにわかる。顔を上げてこっちにきて」



顔を上げるとそこには民族衣装に身を包み、顔にペイントをした女性が僕を見下ろしていた。

手には槍を持って。



この国は一体どの時間から止まってしまったのだろう。

他の国は銃やミサイルを開発しているというのに。

傑作だ。



「話を聞いてくれるんですね。ありがとう」


僕はいつものように軽く微笑んだ。

こいつらを騙すのなんて簡単だな。

楽に過ごせそうだ。



「嘘くさい笑顔。そんな事しても無駄よ」


女は鼻で笑うとスタスタ歩き始める。


時代遅れが僕の本性を見透かせる訳ないだろ。

誰にも気づかれないよう必死でニヤける顔をごまかした。

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