仮面に隠された本当の顔 3

目を開らくと、見知らぬ天井が見えた。

身体を動かす事は出来ず、目だけをキョロキョロ左右に動かすが、点滴のチューブが見えるだけで、人の姿は見えない。


痛いとか苦しいとか、何も無い。

身体を動かす事は出来ない。

とりあえず、自分はあの時死なずに助かったという事だけはわかる。

しかし、指の一本も動かせないという事は、全身麻痺にでもなったのだろうか。


兄は知的障害者で僕は身体障害者。

この現実を果たして両親は、受け止められるのだろうか?

そして、障害を持つ人間となった僕は、両親にとって いらない子 になれたのだろうか。



・・・・わからない。

けれど、なんだかホッとしていた。

障害を持つ事で、両親は僕を見放すだろう。

いや、見放すに違いない。

あの人達はそういう人間だ。

差別しか出来ない、人を見下すしか出来ない、下等な生物だから。



そして僕の身体にも、その血が流れているから、そういう人間なのだろう。


プレッシャーから開放された気がした。

やっと自由になれた。

明日からどうやって生きようか。


兄と同じように、歌を歌いながら絵でも描こう。

あ、でも僕は手が動かせないから、絵が描けないんだった。

なら歌だけでも歌おう。



僕は自由を掴む事が取れたんだ。



身体が不自由でも構わない。

そうならなければ、僕は自由を掴み取る事は出来ないから。

身体が不自由でも、出来る事はたくさんあるさ。




やっと自由をつかみ取れたというのに・・・・・



あれ?・・・・・・・・どうしたんだろう。

眠くなってきた。


両親からやっと逃れた事により、安心したのかな?

強制的に、瞼が閉じていく。


仕方がない。

また目が覚めたら、これから何をしようか?考えよう。

僕にはたくさん自由な時間がある。


これから、今まで出来なかった事をいっぱいやるんだ。


どれくらい時間が流れたのか。

時計がないから何もわからない。

ただ目の前に真っ白な天井が見えるだけ。


僕はただひたすら、眠り続けた。

目を開ければ真っ白な天井が見える。

相変わらず動かない手足。

僕の身体と繋がっているであろう点滴。

ここに来てから誰とも話してないな。

誰かとしゃべりたい。

そう思っていても、自然と瞼を閉じてしまう。

眠たい。

こんな堕落した生活をするなんて、生まれて初めてだ。

この姿を僕の両親が見たら何というだろうか。

もう知っているのかな?僕がこうなっている事を。

知らないのかな?



こんな身体に成り下がった僕は、もうそんな心配をする必要もないのだろう。

何も出来ない。

自分で動く事も出来ない。

そんな僕を見て、両親には見放されてしまったのだろうか。




ずっと誰とも会うことは無かった。

誰かがお見舞いに来た形跡もない。

そんな何も起こらない日々の中、偶然目を覚ますと点滴を取り替える看護師さんの姿が見えた。



「・・・・・ぁ、ありがとうございます」


寝ぼけながらだから、少し吃ってしまったけれど。

僕の声が聞こえたのか?看護師さんと目が合う。



「あら、目を覚ましたので。丁度今眞鍋さんがここに来てるからすぐ呼んでくるわ!」


看護師さんは手早く点滴を取り替えると、病室から飛び出していった。

眞鍋さん・・・・・・・・?誰なんだろう。それは。





やがて静かな病室に カツカツカツ・・・・ ヒールで豪快に歩く足音が聞こえてくる。

どんどんその音は大きくなり、その音が止まったと思うと ガラっと 大きな音を立てて病室の扉が開いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る