仮面の隠された本当の顔 2

ふいに目が合う。

その目は、何処と無く笑ってはいるけど、冷たい目。

まぁそうか。

さっき会ったばかりなんだ。

まだ僕の事を何も知らないし、信用もしていないだろう。



けど、これだけは言いたい。


「あの・・・・、ここに連れて来て頂き、ありがとうございます」


僕を無差別殺人という地獄から救ってくれたお礼だけは、伝えたい。



すると、


「いえ、いいんですよ。

そんな事より、私たちがどういう人間か知らずにお礼なんて言っちゃっていいんですか?

もしかしたら、私たちがここで貴方を手厚く保護する理由は、

今後ハヤトさんの事を利用しようとしているからかも知れないんですよ。

そんな冷酷非道な人間に、簡単に礼を言っちゃうなんて、お人よしなんですね~」


ニッタリ笑う。

まるで冗談を話しているかのように、彼はそう言ったけど、僕はその言葉を半分嘘ではないと思っていた。

なんとなく、目が軽蔑をしているような感じに見えたから。



「それでも構いません。

僕の犠牲で、この世界が変わるのなら、喜んでこの命を捨てますよ。

ただ無駄死にはしない。

これだけは約束して下さい。

この世界を必ず変えると」


真面目に話したつもりだったのに、


「ぷっ!流石ハヤトさん。真面目な子ですね~。

両親も立派な経歴ですし、やはりまともな家庭からはまともな子供が育つというのは、強ち外れてはいませんね」


茶化しながら、笑い始めた。

その行為自体にはなんとも思わなかったけど、引っかかった部分はある。

僕の家族や経歴を知っている・・・・?




「僕の家族を知っているんですね」


「知ってますよ。貴方方の詳細なプロフィールは全てしっている。

ハヤトさんは・・・・確か、両親と貴方の3人家族だ。

それに通いのお手伝いさんが2人居る。

どうですか?・・・・当たっているでしょう」


得意げに僕の個人情報を話す係員。

彼が話す情報には穴があった。

僕達家族しか知らない情報が。



当たってる?・・・・ある意味ね。



「当たってます。3人家族です」


嘘をついた。

いや、嘘じゃない。

今あの家には3人で住んでいる。

父と母と兄の3人でね。



僕はもう存在しないんだ。

もう僕はあの家にはすまない。


あの日、マンションの4階から落ちたあの時から、僕の家はそこではないんだ。




「・・・・なんの為に、僕は生きてるんだろう・・・・」




誰も居ない教室。

一歩足を踏み入れて、すぐに気づいた。


あぁ、また机と椅子がない。

今日は何処にあるんだろう。

トイレ?校庭?体育館?


自分の机と椅子を探す為に、教室を出た。

これがいつもの日課だ。



誰も居ない校舎を1人で歩く。。

ペタペタとスリッパの音が鳴り響いた。



他の生徒達が登校する遥か前に、僕は登校する。

両親は、僕に対して 完璧な人間である事 を望んでいるから、そうなる為に準備が必要なんだ。


完璧な人間なのに、登校して机と椅子がないなんて、格好が悪いだろう?

スリッパを借りに行く所も、なるべく他の生徒には見られたくない。

足りない物を補完する為に、早めに登校してるんだよ。



それが何日、何週間、何ヶ月と続いた頃。

突然両肩に錘がドンっと乗ったような気だるさに見舞われた。


だるい。

眠い。

考えたくない。

何もしたくない。




「・・・・・・・・やめた」



机を探すのを止めて、真っ直ぐ玄関へと歩く。

それは僕らしくない行動だ。





突然、全てが嫌になった。


家族に障害者がいるってだけで、どうしてこんな扱いをされなくてはいけないのだろうか。

どうしてもっと自由に生きられないのだろう。

どうして僕が、両親の期待を全て背負わなくてはならいのだろう。


ここまでやって、完璧な人間である必要は果たしてあるのだろうか?

・・・・・そんなものないよ。

だってそれは、全て 両親のプライド でしかないから。


僕の望みじゃない。




もう全てを捨ててしまいたい。

リセットしたいんだ。



気づけば、登校途中にある4階建てのマンションの最上階に立っていた。

ここから飛び降りれば、死ねる?

・・・・死ねないかもしれない。


死ねないかもしれないけど、それでも怪我をし入院する事で、両親が描く僕の人生設計が少しは狂う事になる。

壊れてしまえ、そんな枷でしかない物は。



迷わず僕は、そこから飛び降りた。

死ぬとか生きるとか、そんな事は問題じゃない。


ただ、両親を困らせてやりたかったんだ。

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