仮面に隠された本当の顔 4

「初めまして!私は眞鍋っていうの、よろしくね。

えっと・・・・・ハヤト君はっと・・・・・」


明るく自己紹介をしたと思ったら、手に持っている資料をパラパラ捲り始める。



「ふ~ん・・・・・・なるほどねぇ・・・・・」


時折独り言を呟きながら、何かを考えた後。



「恵まれた環境に居たのにね、勿体無い。

あのまま普通に生活していても、君なら立派な職業につけただろうに」



それは普通の人達にしてみたら褒め言葉なのだろう。

しかし僕にはまるで鈍器で頭を殴られたような衝撃が走った。

・・・・・・僕自身が望んでいない生活。それを褒められた所で嬉しいとも思えない。

あの苦痛でしかない生活じゃなければ、僕自身は認めて貰えないのだろうか。



「でも大丈夫よ!君はこれから頑張り次第で英雄になれる!

この漆黒の翼の力でね。

君は今回のプロジェクトの中でエースになるわ。一番賢い」


眞鍋さんは僕に漆黒の翼についての詳細な説明をしてくれた。

僕はそれをなんとなく頭に入れる。



・・・英雄か。

僕が英雄になったら、両親を喜ばせてしまうよ。

そんな生活が嫌でマンションから飛び降りたのに、結局は両親を喜ばす駒にしかなれない。

皮肉なものだ。




説明を終えた後、眞鍋さんは僕に1つの質問を投げかけた。



「この国が平和になって、ハヤト君が英雄になれたら何をしたい?」



平和な世界。

果たしてそれは本当に実現するのだろうか?

皆がみんな平和で楽しい毎日をおくれる訳ないだろう。

人間は欲深い生き物だ。

そんなもの幻想でしかない。

平和や幸せは自分の価値観で大きく変わる。

英雄になんて頼った所で、誰も何も救えやしないよ。



「歌を歌いながら絵を描きたいです」




「あら意外。将来の夢は画家さんだったのね」


そういうと眞鍋さんは病室を出て行った。


残念、ハズレ。

僕がなりたいのは画家じゃないよ。



僕が本当になりたいのは、僕の実の兄のようになりたい。

誰にも理解されないだろう夢さ。


それから僕は嘘を重ねた。



「この国が平和になったら、人の為になる仕事をしたい」


これは嘘。

他人の為になる仕事なんてしたくないよ。

僕は自由に生きたい。

兄のように。

誰にも期待されず、何もしないただ自分の世界に篭もり楽しくニコニコ笑う日々がいい。



「この身体になったのは、道路に飛び出した猫を助けようとして車に轢かれてたんだ」


これも嘘。

猫を助けようとなんてしていない。

今の生活が我慢出来なくて、自らマンションの4階から飛び降りた。



小さい頃からずっと 優秀でなければいけない という意識を植えつけられてきたから、

つい自分を良くみせようと嘘をついてしまう。

悪い癖だ。




漆黒の翼を植えつけられてから、月に1度給料を手渡された。

今まで学生をやっていた僕にしてみたら、それは信じられないような額だったけれど、

国家資格を持つ両親は特にお金に困っていないので、仕送りしても


「今自分に必要な物を買いなさい」


と送り返された。



必要な物?そんな物何もないよ。

今まで勉強と習い事しかしてこなかったから欲しい物もないしね。


ゲームやCD、漫画の本を買い漁ってみたけど、どれも興味が沸かずすぐに飽きた。

最後に行き着いたのは、真っ白い画用紙とクレヨン。



いざクレヨンを手に持ち、画用紙に何か描こうと思ったけど、何を描いたら良いのか?わからず。

真っ直ぐな線一本描くことすら出来ない。



夢だった絵を描くこと。

それなのに僕は何も描く事が出来ない。

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