落とし穴 10

初めて早見さんと会った日。

広場で何もしていない街人達に対して無差別テロを起したあの時から、僕は反政府組織に加入した。





幕が降ろされたと同時に、無数の人達と目が合う。


・・・・目の前に居る、何もしていない無実の人間を殺さなくては・・・・。


それはわかっていたけど、僕は両足がすくみ出来なかった。

人を殺すのが怖い。


ミカ、マリア、涼がそれぞれのキッカケで討伐を始める中、僕はただ突っ立っているだけだった。

次々と、さっきまで生きていた人間が遺体となりゴロゴロ転がっていく。



・・・・こんなに簡単に、人という者は死んでいくのか・・・・。

助ける事も出来なければ、守る事も出来ない。

ただ立ってそれを眺めているだけ。




すると、無差別に拳銃を撃っていた早見さんがこちらへやって来た。

さっきまで僕と意見が別れ、口論していた係員と呼ばれる男。


「貴方はまだ手遅れじゃない。こちらへ来て下さい」


僕の腕を引っ張り、人通りの少ない路地へと連れてかれる。



・・・・何言ってるんだ?こいつ・・・・。


そう思った。

だって、僕達を煽り、人殺しをさせようとしているのは、他の誰でもない。

僕の腕を引っ張っているこの男ではないか!




手遅れじゃない・・・?

お前が言うなっ!

僕は彼に対して、怒りが満ち溢れていた。

しかし、言い合いをした所で、彼の方が立場は上。

言い返す事なんて出来ない。



「・・・・あの・・・何処へ・・・」

「黙って!ハヤトさんは こちら の人間だ。まだ壊れてない」


ただ、弱弱しく行き先を尋ねる事しか出来ないまま、どこかへ連れて行かれる。




一軒の喫茶店の前まで辿り着くと、ドアを開け、


「彼は我々の仲間だ。私が戻ってくるまで、誰にも見つからないよう保護してあげて欲しい」


マスターらしき人物にそう言うと、僕だけを喫茶店に押し込み、元の広場へと戻っていった。

急な展開に頭の中は ????? ばかりが浮かぶ。


それを見送った後、僕はマスターの方を振り返ると、彼もこちらを見ていて目が合った。


「あの・・・・・、僕はどうしたら・・・・」


「誰かに見つかってはまずい。奥へどうぞ」


優しく微笑むと、僕を奥の部屋へと招いた。



彼らが信頼するに値する人間なのか?はわからない。

でも、僕には他に頼れる人も居ない。



「ありがとうございます」


案内されるまま、僕は奥の部屋へと歩いていった。




誰も居ない部屋。

そこで僕は、何をする訳でもなく、ただひたすら係員が来るのを待っていた。

「我々の仲間」

そう言い、僕をここへ置いていった。

多分僕に何かしらの使い道があるのだろう。


正直、係員が信頼出来るかどうか?はわからない。

それでも、人を無差別に殺すくらいなら、わずかでもそれから逃れる可能性にかけてみたい。


そう。

僕は係員に賭けてみたんだ。

彼の元に居れば、人殺しから逃れる策があるかも知れないと。



1時間くらい経った頃だろうか。

マスターが部屋にやってきた。


「さあどうぞ。早見は今日中にこちらに来るのは無理だろうから、これを食べて待っていて下さい」


数人分の食料を持って。



「あの・・・・早見さんというのは、先ほど僕を連れてきた人の名前ですか?」


「そうですよ。彼は早見と言います」


マスターは淡々と、持ってきた食料をテーブルに乗せて行く。

この部屋には僕しか居ない。

にも関わらず、大量の食料を持ってきたという事は、僕がどういう人間なのか?知っているのだろうか。



「こんなにたくさんは食べれないです。食欲がありません」


そう言っても、マスターは食料を並べ続ける。

最後に暖かいコーヒーを持ってくると、


「食べれる、食べれないじゃなくて、食べないと困るのでしょう?

遠慮なんてする必要はないんです。

食べてください。

僕はまだ仕事があるので、お店を閉めたら少しお話しましょう」



やっぱり知っている。

僕が 普通の身体 ではない事を。



貴重な食料を僕に与えるという事は、僕に対して何かしらの使い道があると彼らは考えているのだろう。

彼らの考えと、僕の思いが重なりますように。


そう願いながら、マスターが持ってきた食料に手を付ける。



ここで僕は、自分を壊してしまう訳にはいかないんだ。

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