落とし穴 11



三分の一程、食料を食い尽くした頃。


「お待たせしてすみません」


エプロンを外しながら、マスターが部屋へとやって来た。

謝るのは、突然押しかけてご飯まで頂いた僕の方なのに・・・・


「いえ、こちらこそ、世話になってしまいすみません」


座っていた椅子から立ち上がると、一礼をする。



「立ち話もアレですから、座って下さい。

これからする話は、長くなると思いますから・・・・」


そう言うと、マスターは目の前にある椅子に腰をかけた。

それを見届けると、僕も元の椅子に座る。


お互い聞きたい事、話したい事はたくさんある。



「まずは・・・・何から話しましょうかね・・・」


マスターは苦笑いを浮かべると、コーヒーを一口口に含んだ。


「はは・・・そうですよね・・・。

女王の手先である僕に、自分達の考えを率直に話すなんて難しいですよね」


傍から見れば、僕は女王と真鍋の手足となり動き回る犬。

それを良く思わない人達もたくさん居るだろう。



「僕の意見から言います。

信じる信じないは、貴方次第です。

ただ嘘は付きません。

嘘をついて、相手を陥れたら、今の法律じゃあ死刑になるでしょう?」


ブラックジョークを交えてみた。

今の法律に対する、僕なりの嫌味だ。


すると、マスターはクスっと笑ってくれて、

それを見て、彼らが僕と同じ考えを持つ同士なのではないだろうか?と、根拠の無い自信を得る事が出来た。




「率直に言います。

僕は女王と真鍋の作る世界を良いとは思っていません。

今の法律なんて無くなってしまえばいい、そう考えてます。

もし国家を滅ぼそうとしている人達が居るのなら、こんな身体ですが手伝いたい・・・そう思ってます。

こんな世界は間違えている・・・・なんて、僕が言っても説得力なんてないですよね」



苦笑いを浮かべると、マスターは右手をこちらに差し伸べた。



「そんな事はないです。

貴方の考えを見抜いたからこそ、早見は貴方をここに連れてきたのでしょう。

我々は今の政府を滅ぼそうとしてる反政府組織ClearSkyです。

魔王を倒そうと口だけで作られた組織とは違う。

私達は本当に女王の首を捥ぎ取ろうとしている。

貴方の力が必要です。力を貸して下さい」


彼らがどうやって政府を滅ぼそうとしているのか?はわからない。

でも、僕はそれに賭けてみようと思った。


マスターの右手を力強く握り締める。



真鍋。

お前の誤算は、僕がどういう人間か知らず、漆黒の翼を植え込んだ事。

勝手に優等生と決めつけ、安心しきった事。

他人に一切に興味を持たず、人を人と思わなかった事だ。


わずかな落とし穴が、いずれ修復不能の溝になる。

僕がそうしてみるんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る