落とし穴 9



「積極的に討伐に参加していた涼、マリア、ミカの3人はハヤトさんに比べ、明らかに判断能力や思考が衰えていました。

一度枷が外れると、自分で欲を抑えられなくなるんです」


脳が劣化し、自分の感情がむき出しになる。



「まず初めにマリアさんが とある生徒の死 により、錯乱状態に陥りました。

恐らく過去の自分のその子が重なったのでしょう」


過去の自分。

そういえば、僕はマリアの過去を何も知らない。

知らないけど、なんとなく彼女の目を見ればわかる。

昔の僕と同じ目。

世界から色が消えてしまったその目を見れば。



「強力な鎮静剤を投与し、本部へ緊急輸送されました。

その後の事はわかりません」


早見さんですら、わからない事があるとはね。

官僚同士でも、隠しいる事はたくさんありそうだ。



「ハヤトさんより一足先に戻ってきたのですがね・・・・・、別人なんです。

いや何と言いますか・・・・・、外見は同じなんですよ。

ただ、マリアさんが戻ってくる前日に、真鍋と電話で少し話したのですが


『聞いて、早見!ついに脳の完全移植に成功したの!

外見は同じなのに、完全に別人。

完璧な操り人形を作る事が出来たわ!

明日、その物(ブツ)をそっちに送るから!』


そう言い、送られてきたのがマリアさんでした」


神をも恐れぬ行為。

真鍋の事を心から信頼していたマリアを、それに気づかず自分の手で消してしまうなんて、愚かな女だ。



「外見は同じでも、もう別の人物と思ってください。

あれは以前のマリアさんではない。

復帰してからというものの、討伐に行けば無関係の人間を無差別に殺して回る。

あのまま放ってはおけない。

どこかで処分をしなくては・・・・」


処分・・・・・。

もしかして、あの子も処分されてしまったのだろうか?

あの子の性格からして、一般市民に負けるとは考えにくい。




「次はミカさんですが、殺しました」


・・・・・。



「苦痛に耐え切れなくなり、毎晩ホテルを抜け出しては大量に人を殺すようになっていました。

彼女の脳は、もうどうにもならなくなっていた。

殺すしかなかったんです」


早見さんがヤっのか。

まぁそれが僕達の計画だから、真鍋の手で消されるよりもマシ・・・か。


それでも悲しく思う。

ミカはそんなに性格が良い子とは、言えなかった。

涼やマリアの事を平気でバカにするし。

歪んでいたと思う。


そんな子でも、死んで悲しいって思うのは 情 なのかな。

この気持ちは、一緒に討伐した僕達でしかわからない感情。

早見さんには理解出来ないだろうな。

これ以上、ミカについては何も言えなかったし、聞きたくも無かった。




「涼はどうしているんですか?」


「涼さんも討伐に復帰しました。

しかし彼もそろそろ、マズイでしょう。

ミカと同じ現象が起きている」


涼が?

あの真鍋さんに忠実で、造反をするなんて意外だ。

それも漆黒の翼のせいで、脳が劣化したせい・・・・?



「決められた数以上の人を殺し始めてる。

無抵抗の人間を殺す事に快感を覚えてます。

もう彼は人の皮をかぶった悪魔そのものです」


それは僕も同じ。

すでに身体には漆黒の翼という訳のわからない物が埋め込まれているし、

人を1人でも殺した時点で、もう人間ではいられない。




「それ以外にも彼の体には、重大な欠落が見られました。

超人的な能力を得た分、身体がついていかず、骨や筋肉が急激に衰えている。

他の人に比べ、初期の頃から積極的に討伐に参加していた分、ハヤトさんより格段に劣化が早い。

それに対処する方法は、まだ研究されていません。

だから、ハヤトさんは身体の劣化を止めるためにも、くれぐれも漆黒の翼を使わないように」


僕より忠実に真鍋さんに従っていた涼がこんな事になるなんて、皮肉だ。

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