落とし穴 8

車はホテルの前に到着した。

手錠と首輪を外されないまま、車から降りる。


「お久しぶりですねぇ、ハヤトさん。お元気でしたか?」


いつものように、係員がニタニタしながら出迎えてくれる。



「では部屋まで護送します」


警備員が僕の首輪についている鎖を引っ張ると、



「あぁ、私が引き継ぎます。彼は逃げたりしませんよ」


その鎖を係員が奪い取った。



「しかし、万が一何かあってはー・・・・」


事前に真鍋から何か指示をされているのだろう、警備員は係員に詰め寄るが、



「彼はそこまでバカじゃない。自分の立場は理解出来る子です。ねぇ、ハヤト君?」


僕の性格についてよく知っている。

そして、真鍋の手口も。




真鍋さんと謁見した時、あいつは部屋を出る直前


「私の命令に背いた時、貴方の家族を公開処刑にするからね」


ニッコリ微笑みながら、僕にそう言ったんだ。

イジメたり悪口を言う人間が有罪なら、脅しをかけたあの女も有罪だろう。

それなのに、官僚という立場だから裁かれる事はない。

不平等過ぎる。



「・・・・はい」


係員から鎖を引っ張られ、部屋へと護送される。

ホテルの中に居る一般客は、不思議そうな顔でこちらを見ていた。

それはそうだよな。

薄ら笑いのオッサンが、学生の兄ちゃんを鎖に繋げ歩いてるなんておかしすぎる。


まるでこれじゃあ、何かのプレイみたいだ。



「ここがハヤトさんの部屋です。・・・まぁ私と同じ部屋なんですけどね。

これからは四六時中、私と行動を共にしてもらいますから。

よろしくお願いします」


ニッコリ係員は笑うと、扉の鍵を開いた。


ガチャ。


鍵を閉めると、僕を扉の前に放置し、係員はポケットから何か機材を取り出すと、ウロウロ歩き回った。

何かを確認すると、僕の所へ戻り手錠と首輪を外す。



「・・・・盗聴器も監視カメラも仕掛けられてないみたいです。

お疲れ様でした、ハヤトさん」


「ありがとう、早見さん」


長時間手錠を付けられていたせいで、手首にかすり傷を負っていた。

僕はそれを、無意識に擦る。



「思ったより元気そうで安心しました。

真鍋さんのやる事ですから、もっと酷い怪我を負わされてると思いましたよ」


僕の全身を舐めるように見渡す。

早見さんの案内で、部屋の中に居る椅子に座った。

出されたお茶を口に含む。



はぁ・・・・、やっと監視から外れた。

部屋に入る直前の早見さんの不気味は発言は、隠れて監視している真鍋の手下へ聞かせた物だろう。

僕と係員が、繋がっている とバレないように。




「叩かれるような事はありましたが、大きな怪我は負わされませんでした。

多分コレの影響でしょう」


手首についている腕輪を指差す。



「漆黒の翼・・・・ですか?」


「はい、これが付いている以上、僕達は怪我を負うと完治するまでに普通の人に比べ、数倍時間がかかる。

拘束中は、毎日きっちり3食食事も出ましたし、定期的に点滴で栄養補給もしてくれました。

造反した僕に対して、ここまで手厚い持成しがあるという事は、

このまま僕を殺してしまうよりも、他に別の使い道があると踏んだのでしょうね・・・・あの女は」


良くも悪くも、僕はこれに救われたって事か。



「それは良かった。ハヤトさんが居ない間に色んな事がありました。

そして少しだけ、漆黒の翼の弱点が見えてきましたよ」



僕も知りたい事がある。



「何があったんですか?教えて下さい。彼らの事を」

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