食い違い 13

「あのさ!・・・なんか、その・・・・ごめん。俺のせいで・・・・・」


まずは謝罪から始めよう。

まだ出動予定じゃないのに、俺のせいで無理やり借り出されたのだから、一言謝るのが礼儀だろう。

謝る時にヘラヘラするなんて変。

それをわかっているので、一生懸命真顔を保とうとするのだけれど、



「迷惑をかけようとは思っていなかったんだ。なんていうか・・その・・・・・。

あ!そういえば、マリアが戦線離脱してる間に、ミカが殺された。

まぁあいつ自体、腐った性格をしているから、同情する余地もないんだけど・・・・」



自然と顔が緩んでしまう。

仕方がない。

マリアと再会できた事が嬉しくて仕方がないんだ。

感情を抑える事が出来ない。


なので、会話に冗談を組み込ませる事にした。

冗談を入れれば、それで笑っていると思わせる事が出来るだろう。

ただ、冗談の内容が内容なので、マリアに軽蔑されないか?心配な所なんだけど・・・・。



「へぇ、そうなんだ。

別にいいわ。

どちらにせよ、任務には復帰しなくちゃいけないのだから。

後これ、真鍋さんから涼に渡すよう頼まれたの」


そう言うと、右手に持っていた小さなアタッシュケースを、俺に差し出した。



え?それだけ。

まぁ普段から感情表現が乏しかったのは知っているけど、それにしたって素っ気無さ過ぎるだろう。


いくら以前、ミカに苛められていたからといって、一緒に戦ってきた仲間が死んだ事を聞かされ

「へぇ、そうなんだ」の一言で終わらせる事は出来るのだろうか。



「あぁ、ありがとう。

あの・・・・その・・・・、実はミカはモンスターに殺されたんだ。

任務の途中で、武器を持った奴らに囲まれて袋たたきにあったらしい」


アタッシュケースを受け取る。

中に何が入ってるのだろうか。

もしかして、俺の身体に異変が起こってる事を真鍋さんが知り、俺の為にと何か特効薬でも作ってくれたのかな?


受け取ると同時に、もう一度ミカの話題を振りなおした。

もしかしたら、マリアにとってミカはどうでもいい存在なのかもしれない。

だが、ミカの死にモンスターが関わってると聞けば、話は別だろう。

任務に関わる以上、マリアの命にも関わる事だ。

この事については、話さなくてはならない。



するとマリアは、いつも通りの無表情で、


「あら、そう。

ミカって、駒としても使えないし、無能なモンスターに殺されるなんて、つくづく使えない子だったのね」


いつもならありえない言葉を、口にし始めた。


「えっ・・・・・」


「高額な治療費を使い、あの子に漆黒の翼を埋め込む意味はあったのかしら?

モンスターは所詮モンスター、改心なんてしない。

人間になんてなれないわ」



こんなに流暢に話すなんて、



「あの・・・・・」


「女王様も真鍋さんも、これでよくわかったんじゃない。

無意味だって事が。

モンスターに同情する余地なんてない。

殺してしまえばいい」



とてもマリアとは思えない。



「だから・・・・」


「私の足だって、モンスターのせいで失われたのよ。

あいつらを許してはいけない、甘やかしてはいけない。

私達が平和に生きる為には、殺すしかないの」




見た目こそ同じだけど、まるで別人。



そうだ。

あの時、足と一緒に、マリアは 大切な者 をもう一つ失った。

彼女にとって、たった一人の家族を。




「そういえば、アリスはもう部屋に運んだのかい?

いつも大切そうに持ち歩いていたじゃないか。

久しぶりに、俺もアリスの顔が見たいよ」



マリアにとってミカはただの邪魔者でしかなかった。

だから、こんな扱いをされたって仕方が無い。

ミカが悪いんだ。


でも、アリスは違う。

マリアにとって、アリスはこの世界で一番大切な者なんだ。

羨ましいくらいに、マリアに愛されていたアリス。

もう喋れない、笑えない、ただ目を瞑っているだけのアリス。




「あぁ、邪魔になるから施設に置いて来たわ」



「っ!・・・・・」


その言葉を聞き、俺は耳を疑った。

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