食い違い 14

「邪魔に・・・・なる?」


さっきまでの自然と顔が緩んでいたのが、まるで嘘のように今は顔が引きつっている。

マリアの豹変振りに、驚きと戸惑いが隠しきれなくなっていた。



「あんな物を持ち歩いたら、足手まといになるわ。

別に会話出来るわけでもなければ、私の愚痴の一つすら聞いてくれない。

ただのゴミ。

いちいち他の街に移動する時、持たなくちゃならないしね。

だから置いてきたの。


あ、そうだ。

寮母さんに、アレを処分して貰うよう言ってくればよかったわ。

定期的に中に入っている液体を取り替えなくちゃ、腐敗してしまうのよ。

きっと次に施設に戻る頃には、腐敗してみるに耐えない物になっているだろうから」



やめてくれ。

どんどん以前のマリアが崩れていく。

俺の会いたかったあの子は、これじゃないっ!



「違うよ・・・・・、マリアにとって、アリスはそうではなかった。

かけがえの無い、たった一人の家族だったじゃないか!」



「家族?あれが?

あんな生首が家族だなんて、笑っちゃう」



「笑う?嘘だ!強がらなくたっていいじゃないか!

別に俺は、たとえ生首になったとしても、その人を家族と言い大切にする事をバカになんてしない!

むしろ、羨ましくさえ思っている!

いい加減、俺にだけは以前みたく本音で喋ってくれ!」




気だるい身体で必死に立ちながら、腹の底から叫び声を上げる。

また以前のマリアに会いたいから。




「強がってなんてないわ。

あんな生首を家族だなんて、頭がおかしいんじゃない?

モンスター討伐に明け暮れて、気でも狂った?」



死んだ魚の目で、マリアは笑う。

マリアが笑うのなんて初めてみた。

でも、見たかった笑い声はこれじゃない。


アリスの事を生首といい、俺の事をバカにするなんて、以前のマリアじゃ考えられなかった。

これじゃあまるで、ミカと同じ。

人をバカにする事しか出来ない、モンスター。


アリスがダメなら、こっちはどうだろう。

離脱する前、マリアが気にしていた子の事。


もしかしたら、久しぶりの任務で、強がっているだけなのかも知れない。

肩に力は入りすぎちゃってるだけなのかも知れない。


だから、少しでもその重荷を取り覗いてあげたい。

そして、以前のマリアにまた会いたい。




「そういえば、その・・・マキが死ぬ直前、俺に礼を言ってくれたんだ。

ありがとう って。

勘違いして殺してしまった俺に、礼を言ってくれた。

自分の命を奪った俺に、礼を言うなんて・・・、あんな優しい子を殺してしまうなんて・・・・」



マキ。

マリアは、俺がマキを殺してしまった事に、心を痛めていた。

だから、せめて最後にマキが感謝の言葉を述べてくれた事を伝えたかったんだ。

マリアの気持ちが、少しでも晴れるように。



「そう。これだけ大規模な作戦が行われているの。

事故や間違いは付き物。

気にする必要なんてないわ。

たった一人、殺したくらいで」




マキの命は、そんなに軽い物だったっけ?

マリアの中で、者から物に成り下がったんだったっけ?




「・・・・・」



「そんな事より、早くアタッシュケースの中に入ってる液体を注入するといいわ。

それを毎晩投与し続ければ、翌日また討伐出来るようになるみたいだから」



俺の手に握られたアタッシュケースを指差す。

漆黒の翼の影響で、衰えた俺の身体。

それを補う為に造られた、薬品。

成分や効果については、いつものように詳しく説明なんてされない。



「これを入れて、また以前のように動けるようになる事はわかった。

これに副作用ってあるのかな?

身体に入れて、良い事以外もあるだろ?

リスクだってあるはず」



「さあね、知らない」


そう言うと、俺に背を向けた。

廊下に出て、今まさに扉を閉めようとしている彼女に対して、声をかける。


「まるで君は、マリアの皮をかぶった別人みたいだ。

君は一体誰なんだい?」


「何言ってるの?私はマリアよ」


そう言うと、いつもの無表情で、扉を閉めた。。

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