食い違い 12

そうこうしているうちに時間は流れ、気づけばマリアがこの街に到着する時間になっていた。



「うわ、こんな時間かよ!・・って、髪の毛ボサボサじゃん!

こんな姿で会えないよ!セットし直さないと・・・・・」


寝たきり生活になってからは、身だしなみとは無縁の生活をしていた。

顔を合わせるっていっても、係員か点滴を取り替えてくれる看護師らしき人くらいだったから、気にもならなかった。

しかし、今日は久しぶりにマリアと会える。

珍しく朝から風呂に入り、髪の毛をセットしていたというのに、

さっきからの暴走により、かきむしったせいで、髪の毛が鳥の巣みたいだ。



髪型をセットし直す為、重たい身体を無理やり起す。

浴室へ向かって歩こうとした時、



コンコン。


ドアをノックする音が聞こえてきた。



マジか!こんな姿で会う事になるなんて・・・・。

今から浴室に行っても間に合わない。

少しでも、鳥の巣状態を解除すべく、両手で髪の毛をセットしながら、



「どうぞ」


ドアの向こうにいるであろう人物に対して、声をかける。

向こう側に居る人間は、返事をする事もなく


ガチャッ


と、ゆっくり扉を開いた。




マリア・・・・・なのか?




ドクドクドクドクドク・・・・。

心拍数が上がるのがわかる。

口から心臓が飛び出そうな位緊張していた。


やっと会える。

久しぶりに、あの子の顔を。



扉が開き、一番最初に見えたのは・・・・・・




待ち焦がれたあの子ではなく、係員だった。


「おや、涼さん。起き上がって大丈夫なんですか?」


いつもの気持ち悪い笑顔を浮かべながら、ニタニタと俺の顔を見ている係員。

その笑顔も、その口から出る言動にも虫唾が走る。



「あぁ、トイレだよ。 ト イ レ」


期待はずれ。

ドキドキして損した。


ドアに向かってクルっと背を向けると、浴室へと歩き始めた。



何しに来たんだよ。

お前に用はねぇんだよ!



浴室のドアに手をかけようとした時、


「トイレ?さて・・・・漆黒の翼を埋め込まれていると、排泄する必要がなかったような・・・・。

でも涼さんが行きたいというのなら仕方がないですね。

折角マリアさんをお連れしたというのに・・・」



ん?

マリアを連れてきた?



係員の後ろを良く見ると、見慣れたバンダナを頭に巻いた人物がかすかにみえた。

あのバンダナには見覚えがある。

あの子がいつも、毛がない頭を隠す為に巻いていた物。




「いや!トイレとか行かなくても大丈夫なんで!」


前言撤回すると、ヨタヨタしながら、出入り口の方へ向かっていく。

もっとスタスタ歩きたいんだけど、身体が思うように動かない。

それでも1秒でも早く、顔を見たい。




ずっと待ち焦がれていたあの子に。




「良かったですね。涼さんトイレに行かなくても大丈夫みたいですよ」


係員は後ろに居るであろう人物に対して、余計な事を言い始めた。



バカ!トイレとか言ってんじゃねぇよ!

カッコ悪いだろうが!

すると、



「そう、良かった。真鍋さんからの預かり物も渡せるわね」


聞きなれた声が聞こえてきた。

この声は、マリアの物。 


トイレとか下世話な話に食いつかない所も、マリアらしい。



見慣れたバンダナ。

無表情な顔。

ミカにからかわれていた、ロボットの足。

何1つ変わっていない。


以前と全く同じ姿で、マリアはまた目の前に戻ってきてくれた。



「・・・おかえり」


自然と、口からその言葉が零れる。



「ただいま、涼」


いつもの無表情で、マリアはそう答えてくれた。

たったそれだけで、全身が焼け爛れてしまいそうに熱を帯びる。

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