食い違い 7

「おや?どうしたんですか?浮かない顔をしちゃって。

マリアさんが戻ってくるんですよ。

涼さんと仲が良かったじゃないですか。

もっと喜ばないと!」


「そう・・・ですよね。ハハ・・・・、楽しみだなぁ・・・・」


棒読みだ。

係員が言った通り、俺にしてみたら、もっと喜んでいい事なのに。



「様子がおかしいなぁ・・・・、いつもの涼さんとはまるで別人だ。

もしかして昨日外食して当たっちゃったとか?まさかねぇ~・・」


そう言い高らかに笑う係員。

奴にしてみたら、冗談のつもりなんだろうけど、今の俺にはそんなこいつの行為が鼻につく。

こんな下らない会話をする位なら、さっさと飯を食って部屋に戻りたい。

1秒でも早く、こいつから離れたいんだ。

何か の話題が出る前に。



ヘラヘラ笑う係員を横目に、俺は必死に飯を口の中に駆け込んでいた。

朝食を全て食べ終えれば、先に席を立っても不自然ではないと考えて。



味噌汁を全て飲み干せば、席を立つ事が出来る!・・・と思ったその時。



「あぁ、そういえば昨日涼さんが担当した討伐の事なのですが・・・・」


それは、触れられたくない話題だった。

ギクッと身体が震え、思わず手に持っていた茶碗を落としそうになる。


そんな俺の行為を見逃さない奴は、



「あらら、大丈夫ですか?危ないな~。まだ寝ぼけちゃってますね、茶碗を落としそうになるなんて」


ニタニタと笑う。



「ハハ・・・、そうですね。寝ぼけちゃってますよね・・・しっかりしないと・・・」


必死に場を取り繕うが、心臓が口から出そうだ。

耐えられない。



まずい、昨日の事がバレている。

そうだよな、バレないはずはない。

俺は何を期待していたのだろう。


人を殺すのが俺達ならば、遺体を処分するのは国の仕事。

昨日殺した後、遺体を隠せばバレなかったかも知れない。

それなのに、昨日の俺は気が動転していて、そこまで頭が回らなかった。


あの学校では一人の人間しか、殺してはいけなかった。

にも関わらず、30人以上の無実の人間を殺してしまった。

そんな行為、許されるはずがない。



ここまで頑張ってきたのに、ここで俺の人生も終わり。

英雄への道は閉ざされるのか。


気分が完全に落ちていた。


「話を戻しますが、無事一人の遺体を確認し、処分しましたので・・・」


「え?」


係員の言った言葉に、耳を疑った。


一人の遺体?どういう事だ?

昨日俺が殺した人間の数は30人以上。

にも関わらず、一人分の遺体しか確認出来なかった・・・・????



係員は目を細めると、


「えっと・・・、聞き取りにくかったでしょうか?

もう一度繰り返しますね。

一人の遺体・・・・、クラスの子を執拗に苛めた罪で山田健二をモンスターとみなし、討伐した件で、

無事にこいつの遺体を確認し、処分しましたので・・・・」



「えっと・・・・・、一人分だけですか?」


その言葉を口に出した後、聞かなきゃ良かった!と、すぐに後悔の念が押し寄せてきた。

こんな聞き方、不自然だろう!

その学校では一人しか殺しちゃいけないのだから、一人分の遺体しかなくて当然なのに!



「えぇ、一人分ですよ。当たり前じゃないですか。

だってあの学校での討伐すべき物の数は一人ですから・・・・」


「で、ですよね。ハハ・・・・、何聞いちゃってるんだろ、俺。

じゃあ、もう飯を食い終わったので・・・・」


「え?もう食べ終わったんですか?早いな~。

私なんて、まだ半分も食べ終えていないのに」



バレてなかった。

安心感から、自然と笑みがこぼれだす。


トレーを持つと、急いで席を立った。

これ以上、係員と顔を合わせて、余計な事を言ってしまわないように。



「・・・・しかし、涼さんがここまで笑うなんて初めて見ました。

何か良い事でもあったのでしょうか?」



背後から聞こえる、係員の声。


あぁ、あったよ。

良い事があった。

俺、まだ英雄になれるんだ。




山田健二。

それが、本来殺すべき唯一の人だったのか。


良かった。

バレていなかった。

俺が、決められた数以上の人間を殺した事が。



国の仕事なんて、ずさんなモン。

なんだ、クソ真面目に仕事をこなしてきて、損した。



今日からは、モンスターに関わらず、生意気な奴は全て殺してしまう。

俺はこれだけ頑張ってるんだ。

一人二人、多く殺した所でバチは当たらない。

だって、遺体が何体あろうと、国の奴らが知る事はないんだから。

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