食い違い 6

「・・・おはようございます、涼さん」


レストラン内。

トレーを持ち、空いてる席を探している時だった。

背後から聞こえる、聞きなれた声。

いつもなら、すぐに振り返り「おはようございます」と挨拶を仕返しているのだけれど、

今日はそんな気にはならなかった。



ぎこちなく振り返ると、


「あぁ、係員さん。おはようございます」


必死に笑顔を取り繕う。

係員の目を真っ直ぐ見れないのは、後ろめたい事があるからだ。

後ろめたい事というのは、昨日やった討伐の事。



「昨日の夕食はどうしたんですか?姿が見えなかったのですが・・・・。

折角、涼さんとご一緒出来ると楽しみにしていたのに。

外食でもされたのでしょうか?」


昨日の夜、俺はホテル内にあるレストランにはいかなかった。

理由は係員に会いたくなかったから。

今朝も顔を合わせないよう、時間をズラしたというのに、偶然会ってしまった。

俺って、本当に運がない。



「あぁ、昨日はちょっと用事があって外食したんです。

その後は、疲れてたので部屋に戻って寝ました」


「へぇ~・・・・、いつも同じ行動を取る涼さんが、外食なんて珍しいですね・・・・」


ニタニタしながら、痛い所を突いてくる係員に、



「えぇ、ちょっと・・・その・・・」


モゴモゴしてしまう。

もしかして、もう係員に全てを見抜かれているのだろうか?

バレているのだろうか?

もし全てがバレてるとしたら、俺の将来に陰りが出るのだろうか?

人を無差別に殺し捲くったミカのように、俺にもペナルティが下るのだろうか?

アレコレ考えていると、



「立ち話もアレですから、席にでも座りましょう」


係員にエスコートされ、空席へと誘導される。

顔を合わせるどころか、このままじゃ一緒に朝食コースじゃないか。

ツイてない。


本当は断りたい所だったけれど、そうすると不自然に思われる。

渋々後をついていった。


席について早々、


「疲れていませんか?」


「え?」


右手に箸、左手にお椀を持ち、まさにお味噌汁を飲もうとした瞬間だった。

唐突な係員の言葉に、俺は思わず気が抜けた返事をしてしまう。



「いえ、ミカが死んでから、討伐出来る人っていうのが涼さんだけになったでしょ?

だから、疲れてるんじゃないかな~?って思いましてね」


いつものように、ニッタリした顔でこちらを見ている係員。

その笑顔は、見慣れているはずなのに、今日はなんだか不気味に感じてしまう。



「あぁ、その事ですか。いや、大丈夫ですよ。俺一人でも大丈夫です」


無駄に大丈夫という言葉を連発する。

その訳は、多分俺が今 大丈夫 な状態になりたいからだ。


そんな俺の心情がわかったのか?

係員は一際明るい声で、



「流石涼さん!頼もしいなぁ~!

今週いっぱいで、この街の討伐も終わりです。

来週からは、マリアさんも合流するので、それまでの辛抱ですよ」


そう言うと、両手を大きく広げた。

その姿はまさに、胡散臭い商人みたいだ。



マリア・・・。


そうだ。

マリアが戻ってくるんだった。

マリア・・・・・か。


本来なら、マリアが戻ってきてくれる事は、とても嬉しい事。

それなのに、心からそれを喜べないのは、あの出来事が引っかかってるから。

マリアと別れる前に起った事。

マキの事。



マキを殺した事を、マリアはきっと怒っているだろう。

そして、俺の事を心から軽蔑しているはず。



仲間だと思っていたマリアに軽蔑されるなんて。


でも、あの時の俺は間違えた行動はとっていなかった!

知らなかったんだ!

だから仕方がない。

昨日ノ出来事モ・・・・?

俺の勘違いだったから、クラス全員を殺したのは、俺のせいじゃない。

そうなんだ!

俺のせいじゃない!

悪いのは・・・・・全部・・・・全部・・・・あいつらのせいなんだ!

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