食い違い 5

「・・・・はぁ・・・・はあ・・・・はぁ・・・」


さっきまで、慌しかった教室が、今では物音1つしない。

聞こえるのは、俺の口から出る息を吐く音だけ。



ピチャピチャ音を立てながら、廊下に出た。

教室の中を見ると、無残に転がる遺体が見える。



「俺は悪くない。悪いのはお前等の方だ」


そう呟くと、扉を閉めた。





教室の中に居た人間の姿をした 物 は、全て殺した。

その時の事は、必死だったからあまり覚えていない・・・・そう思いたい。



ヤらなければ、俺はヤられていた。



そう思った。

だからこそ、扉からヒョッコリ顔をだした男性の首を跳ねた後、急いで教室の中に入り、

中に居た奴らに向かって、形振り構わず剣を振り下ろしたんだ。


抵抗するバカのせいで、多少の手傷は負ったものの、大きな怪我をする事なく、全ての首をもぎ取った。



「ばーーーーか!所詮お前等みたいな雑魚が、俺様を殺せる訳ないんだよ!!!」


遺体を蹴り飛ばしながら高笑いをし、隠し持っていたであろう武器でも見てやろうと、

奴らのカバンや机を漁るが、教科書やノート等、学校で使うもの以外は出てこなかった。



「え?どうなってるんだよ」


俺の事を、全員で殺そうとしたんだろう?

そうなんだよなぁ・・・・?



掃除用具や、教壇にある机、ありとあらゆる場所を探すが、人を殺せそうな物は何一つでて来ない。

出てくるのは、全て学校で使うものばかり。

必死に探しても、人を殺める為の道具なんて、何処にもなかった。



まさか、無実の人間を殺してしまった?



そんな言葉が脳裏に浮かぶが・・・・、


違う!そんなハズはない!

だって校長は、ミーティングの時からニヤニヤ不気味に笑っていたし、俺の肩に触れた!

皆で俺の事を殺そうとしたんだ!


そう自分に言い聞かせる。



でも、もしそれが俺の勘違いだとしたら・・・・。

本当は何も抵抗する気なんかなかったのに、そんな人達を俺が殺してしまったとしたら・・・・・。




「俺は悪くない!何も悪くないんだっ!!!!」


大きな声で叫んだ。

そう周りに思われるように。

自分に言い聞かせる為に。


事実を捻じ曲げる為に。


必死に自分に言い聞かせたはずなのに、何故だか落ち着かない。


「俺は悪くない・・・・俺は悪くない・・・・」


何度も自分にそう呟く。



ホテルへ戻ると、フロアに見慣れた人物の姿が見えた。

いつもなら、顔を合わせる事に問題はないのだけれど、今はとても会いたいと思えなかった。

しかし、彼は俺の姿を確認すると、いつものニッタリ笑顔でこちらへ歩いてくる。



「お疲れ様です。おや、涼さんが制服をそんなに汚すなんて珍しいですね・・・・」


上から下までまるで嘗め回すように俺の事を見つめると、不適な笑みを浮かべる人物、係員。



「あぁ、今日はちょっと苦戦しちゃいまして・・・・じゃあ・・・」


話を適度に切り上げると、横をすり抜けエレベーターへと歩いていった。

よし!上手く話をそらせた!

・・・・そう喜んだのもつかの間、



「・・・・そうですか。あれ?おかしいなぁ・・・・、今日担当した学校のモンスターは1匹しか居ないはずなのに・・・」


背後からその言葉が聞こえた途端、背筋に寒気が走る。

本当は、あの学校では一人しか殺しちゃいけなかったのか・・・・。


それにも関わらず、俺は校長とクラスメイト全員殺してしまった。

完全にオーバーしている。

マズイ。

そこを突っ込まれたら、何っていい訳をしようか?



とりあえず、ひとまずいい言い訳が思いつくまでは、部屋に退避しよう。



係員の言葉は聞こえなかった振りをし、足早に部屋に戻る。

中に入ると、急いでドアをロックし、カーテンを閉めた。

まだカーテンを閉めるには早い時間だけど、なんとなく人の目が気になる。

誰にも見られたくはない。



次に血で汚れた制服を洗う為、浴室へと入った。

一歩足を踏み入れ、顔を上げると丁度目の前に大きな鏡があり、嫌でも自分の姿が見える。



髪の毛も顔も、返り血で真っ赤に染まっている。

今朝顔を洗った時とは、違う自分の姿。

その姿はまるで、人を襲い食らった獣のよう・・・・。


これが、今の俺の姿・・・・ ?




「俺のせいじゃない!俺は悪くないんだっ!!!!」


ボディーソープやシャンプー等を、手にグチャグチャに混ぜ合わせると、それを顔や髪の毛、身体に必死にこすり付ける。

血を綺麗に洗い流せば、今朝の俺に戻れる気がしたから。


泡が白くなっても、まだ洗い続けた。



「俺のせいじゃない!俺は悪くないんだっ!!!!」


何度もそう叫びながら。

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