天誅 1

実家の前に、到着。

車から降りると、大きく深呼吸をする。


やっと戻ってこれた。

久しぶりに家族に会える。


そんな事を考えると、自然と顔が緩んでいく中、



「では、明日の朝9時にお迎えに参りますので、ごゆっくりお過ごし下さ・・・」


気持ち悪い不吉な声が背後から聞こえてきた。

折角のいい気分がぶち壊し!

係員が喋っている途中で、強制的に車の扉を閉めると、シッシと追い払った。

運転手は空気を読んだのだろう。

まだ係員が喋っている途中だというのに、車を発進させる。



こうしてようやく、あの集団からアタシは開放され、普通の人間に近づく事が出来たのだ。

大きく伸びをすると、一歩一歩自宅へと近づいていく。


そういえば、実家の場所を教えてないのに、なんで運転手はここまで迷う事なく辿りついたのだろう?

先に調べられてたとか?


気持ち悪い!

ストーカーじゃない!ったく。

この組織には、まともな人間はいない訳?

・・・って、なんでやっと実家に戻れたというのに、またあいつらの事を考えてるのだろう。

あ~、やだやだ!

明日の朝9時まで、アタシは自由なのよ!



玄関の真ん前に辿り着き、ドアノブへと手を伸ばす。

実家に住んでいた頃みたいに、玄関を開けようとするが、 ガチャガチャ と、音を立てるだけで開ける事が出来ない。

あれ?どうしたのかしら?鍵を開き忘れたとか?



「・・・・もう!抜けてるんだから」


うちのママといえば、少し天然の入った人。

だから、きっとアタシが今日帰る事を忘れてて、鍵を開け忘れたのね。


扉の横にあるインターホンを1回押す。

ピーンポーンと、音が鳴り響いた。


ご馳走でも作ってるのかな?なんて、ワクワクしながら待つが、一向に鍵が開く気配がない。

あれ?どうしたんだろ?


何度もインターホンを鳴らすが、鍵が開く気配もない所か、こちらへ歩いてくる足音さえない。

出かけちゃったとか?



窓から様子を伺う為、庭へと回るが、分厚いカーテンが閉められており、中を覗く事が出来ない。

なんで?

とりあえず、何処かから中に入れないか?と家の周りを一周するが、どこも全て鍵がかけられ、中に入る事が出来ない。

どうして入れないの?


再び庭に戻ってきて、カーテンの隙間から中を覗こうとした時、



「キャアッ!」


小さな悲鳴と共に、目の前のカーテンが揺れ動いた。

・・・・この声は、ママの声。



ガラスを軽くコンコンと叩きながら、



「ママ!開けて!アタシよ、ミカ!今日休みを貰って帰ってきたの!聞いてるでしょ?」


叫ぶが、返事はなく、相変らず窓には鍵がかかったままだった。




「どうして開けてくれないの?」


「折角戻ってきたのよ!」


呼びかけても、返事をしてくれない。

どうして?娘が久しぶりに帰ってきたのに!


アタシが今日、ここに戻るって事は、伝えてくれたって言ってたじゃない。

それなのに、どうしてアタシを出迎えてくれないの?

係員が嘘をついたとか?

本当は、家族にアタシが戻る事を伝えてなかったとか?

そうよ!じゃないと中に入れないとか、オカシすぎる!



「顔を見せて!うちの中に入れてよ!」


あいつらのせいで、中に入れないなんて悲しすぎる。

窓ガラスを叩くのを止めて、座り込むと、



「・・・どうしてここに戻ってきたの?」


ガラス越しにママの声が聞こえてきた。

応えてくれた!

それを嬉しく思ったあたしは、その場から立ち上がると、再び窓の近くへ寄る。



「許可が出たの!久しぶりに実家に戻っていいって!

本当はね、ダメなのよ。

勝手に外出したら。

でもね、アタシが真面目で優秀だから特別に許可が降りて、それで戻ってこれたんだから!」


笑いながら話す。

しかし、ママと私の間には温度差があるみたいで、しばらく沈黙した後、



「・・・何故、ここに戻って来ようと思ったの?用件は何?」


不思議な事を言い始める。



「何でって、だってココはアタシが生まれ育った家だから・・・・。

それに、ママも久しぶりにアタシに会いたいかと思って。

色々心配かけちゃったけど、・・・・アタシ生きてたんだよ!」



喜んで貰えると思った。

大事な娘であるアタシが、生きている事を、ママは認めてくれるって思ったの。

それなのに、ママの口から出た言葉は、



「・・・どうして生きてるの?なんの為にアンタは存在してるの?

なんで帰って来たの?」


自分の耳を疑う言葉ばかりだった。

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