死ぬと生きる 1
長い間滞在していたこの街ともお別れする時が来て、
いよいよ、次の目的地へ移動する事になった。
アタシと涼は、両手に抱えきれない程の食料を持ちながら、車の中へと乗り込む。
いつも食料を大量に抱え込んでいるといえば、アタシぐらいで、涼まで持ち込むというのは珍しい。
「なんでアンタまで、そんなに食料を持ってる訳?」
と、尋ねると、左手で紙を持ち、右手でパンを齧りながら、目線だけこちらを向けると、
「今日は長時間の移動で、討伐はしない予定だから。
たくさん食っとかないとね。
栄養全てを、漆黒の翼に吸い取られちゃうよ」
言いたい事だけ話すと、すぐに目線を紙へと移す。
落ち着かない男だ。
「ふーん、そうなんだ。で、また係員も来るのかな?
アタシあいつキモくて無理なんだよね~」
紙袋からパンを取り出すと、それにかぶり付く。
今日は名目上、討伐はナシになってるけど、夜が更けてからアタシはまた狩りに行くつもり。
涼はただある程度のカロリーを摂取すればいいのかも知れないけど、
アタシはそれに +右手の指の痛み止め 分もある。
一人も殺さないとなれば、食べる量も膨大で、今日は一睡も出来ない事になるなんて無理!
お腹いっぱい食べて、人を殺して、グッスリ眠りたいの!
「ねぇ・・・、マリア復帰するんでしょ?」
「・・・・・」
「ハヤト何処に居るのかな?」
「・・・・・」
シカト。
全て、アタシの独り言になった。
涼は眉間に皺を寄せながら、分厚い紙の束を見てる。
アタシには、それに何が書かれているのか?全くわからない。
それは、朝にフロントの人間から手渡された物で、
いつも朝必ず涼と何かしら話をしている係員から託された物だった。
すでの何処かへ移動したらしく、奴の姿を見る事はなかったけど、
一体あいつ、何者なのだろう?
全く検討もつかないわ。
「あ~、つまんない!」
何もする事なく、ただ食料に齧り付く。
見えるものといえば、気難しい顔をした涼か?又は、曇った外の景色のみで、
どっちを見ても、気分が晴れる事はない。
こんなモヤモヤした気分を晴らしたい。
・・・・・・・・・・早く、誰かを殺してスカっとしたいわ。
放課後。
下校途中にあるお店で購入したアイスを食べながら、ダラダラと歩いていた。
「今日はミキとマイは部活だって」
「美術の先生って、キモくない?」
他愛のない話で、アタシ達2人は盛り上がる。
いつもは4人で行動してるのだけれど、今日は偶然2人っきり。
いや、本当は偶然じゃない。
アタシがミキとマイに頼んで、席を外して貰ったの。
話しておきたい事があったから。
だから、2人っきりになりたかった。
アタシは大きく息を吸うと、覚悟を決め
「実はさ・・・・、アタシ亮の事、好きなんだよね」
ずっと話しておきたかった話を、ようやくサナエに伝えた。
どんなリアクションをするだろう?
ドキドキする。
だって、サナエと亮は幼馴染で、ずっと仲良しだって事は知ってるしね。
一部では、サナエと亮が付き合ってるなんて噂だって流れてちゃってるし。
でも、それはダメなの!
誰が何と言おうと、サナエはアタシの親友!
一生友達だって、誓い合った仲だから、裏切れない。
でも、亮の事が好きって気持ちも譲れない!
どちらも選べなかったアタシは、面と向かってサナエに聞く事にした。
亮とサナエの本当の関係を・・・・。
一瞬、驚いた顔をしたけれど、すぐにニッコリ笑うと、
「そ、そうなんだ。へぇ~」
どちらとも言えない返事をする。
そんなんじゃ、わかんない!
白黒ハッキリしてよ!
「で、明日にでも告ろうなんて思ってるんだけど、サナエも付いて来てくれない?
一人じゃ寂しいからさ」
もしサナエも亮の事が好きなら、ここまで言えばアタシの事を引き止めるはず。
しかしサナエは、相変らずニッコリとした表情のまま、
「いいよ。頑張ってね」
右手を差し出した。
アタシはその右手を力強く、握り締める。
どうやらサナエは亮の事を、何とも思っていないっぽい!
な~んだ、ドキドキして損した。
なら、楽勝じゃん!アタシが亮に振られる訳ないし。
後はまた、他愛のない話をしながら帰った。
サナエと一緒に帰った目的は、亮との事だったから、後は特に話したい事はないしね。
っていうか、それより早く家に帰りたいんだけど!
この出来事を、マイとミキに報告しなくちゃ!
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