ミカ 15
フロントへ走っていくと、
「新聞!早く今日の新聞を出して!」
新聞を渡すよう、急かす。
アタシの剣幕に負けたのか?フロントの人間は急いで新聞をこちらへ差し出した。
それをアタシは乱暴に受け取ると、フロントに広げ、隅から隅へと記事を確認する。
学校の件は置いといたとしても、真夜中の人通りの少ない場所での無差別殺人事件。
それが2日連続で起こっている。
そんな一大事、大々的にニュースとして取り上げられているはずだわ!
「・・・・ない。何処にもない・・・・」
嘘!
だって、道端にゴロゴロ遺体が転がっているなんて、非日常的な出来事。
オカシイじゃない!
それが、新聞の記事になっていないってどういう事?
「役不足!」
アタシはそう吐き捨て新聞をグシャグシャに丸めると、エレベーターへと走っていった。
新聞に何も書かれてないのは、なんらかの理由で出稿までに間に合わなかったとして、
なら、ニュースならどう?
テレビなら、緊急情報としてリアルタイムで放送される可能性がある。
こんな不可思議な大量殺人事件なら、尚更!
部屋に戻り、テレビをつける。
何処まで、犯人についてバレてる?それが知りたかった。
しかし、通常通り放送されているだけで、チャンネルを変えた所で、どこの局も深夜の一件について触れようとはしない。
って事は、何?
これは、バレてないって事?
あんなに派手にやらかしたのに?
マジで・・・・?
案外、女王が出した新しい法律や監視員の目なんて節穴、バカなんじゃん。
「ぶっ・・・・・あははははははははは!!!!」
一人で笑い続ける。
アタシは笑う事を、止められなかった。
何も怯える必要なんて、ないんじゃない。
どんなに派手に人を殺したって、ニュースの1つになったりしない。
何人殺しても、お咎めはなし。
・・・・バカのお陰でね。
なら、ホテルを抜け出して、どんどん殺せばいい。
右手の痛みから解放されるわ。
その日から、涼の目を盗んでは、人をどんどん殺し始めた。
どんなに殺したって、殺害した人数は、涼が討伐した数のみしかカウントはされない。
多い日なんて、100人近く殺した日だってある。
それなのに、ニュースの1つにも取り上げられない。
「アハハ・・・・・、最高だわ・・・・」
右手が痛む事を、アタシはすでに忘れていた。
ただ、それが自分に課せられたノルマのように。
又は、イライラした気持ちを落ち着かせる為に、人を切り裂く。
そこに罪の意識はない。
だって、こうなったのも、全て真鍋と女王が悪いのよ。
あいつ等が、アタシに漆黒の翼を無理やり埋め込んだから。
アタシはあの時、死ぬつもりだった。
それを引き止めたのは、他の誰でもない、あいつら2人。
それに、人殺しに拍車をかけたキッカケは右手であり、
あいつらが何も考えずに、指を切断したから悪いのよ。
それに、死んだ人間は運が悪かっただけ。
恨むなら、神様を恨みなさいよ。
決して、アタシを恨まないでね。
だって、アタシは悪くないんだから。
今日も1日が始まる。
気難しい顔をしながら、今日のスケジュールが書かれた紙を眺めている涼を追い抜かすと、
アタシはホテルの出入り口前に停車してある車へと乗り込んだ。
これから何処に連れて行かれようが、今のアタシには興味はない。
殺す人数が足りないのなら、また殺せばいいんだから。
そんなに真剣に、向き合う必要なんてないわ。
すると、係員はいつもの気持ち悪い笑みを浮かべながら、車へと近づいてきた。
「おや、ミカさん。最近はずっとご機嫌ですね」
開けっ放しのドアから中を覗くと、紙袋いっぱいに詰められたパンを手渡す。
その姿は、まるで変質者そのもので、アタシはソレを左手で払うと、
「アンタみたいな人間が持ってきた物、食べれる訳ないでしょ。気持ち悪い、いらなーい」
顔を背けた。
「でしゃばった真似をしまして、すみません。最近、食べ物を持っていかない日を多々目撃したのでつい・・・ヒヒヒ・・・」
目撃した?
なにそのストーカー発言。
気持ち悪い。
もう無理やり食べる必要も無くなったのよ。
人を殺せばいいんだから。
そうすれば、アタシの身体は順調に動く。
そして、いつかは・・・・・・・・・・・・・真鍋と女王を殺してやる。
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