ミカ 6



目が覚めると、まず初めに

身体に走るバキバキとした痛みと、顔に何かが乾きパリパリする、2つの感覚が起こる。


「・・・いたった・・・・」


身体に走るバキバキとした痛みは、床に無造作に横になったから起こった物で、

顔のパリパリ感は、きっと血が乾いたのね。



ゆっくり身体を起すと、服を脱ぎシャワーを浴びる。

血がこびり付いて中々落ちず、ボディーソープを付けては洗い流す、という行動を何度か繰り返した。



昨日は・・・・どうしたんだったっけ?

ボーっとして、よく考えれない。

えっと・・・・、まぁ・・・・いっか!

思い出せないって事は、たいした事でもないんだろうし。

重要な事なら、忘れないはずでしょ?

とりあえず、右手が痛む前に朝食を食べないと。



髪の毛はまだ半乾きのままだったけど、そのまま部屋を出る。


一刻も早く、何かを食べないと・・・・!

右手にあの痛みが走る前に。

すっかり、右手の痛みへの恐怖がアタシの生きる中心ととなっていた。


あ~・・・何やってるんだろ、アタシ。

もっと普通に暮らしたいのに。

なんで自分の右手に怯えないといけないの?

これも全て、真鍋と女王のせい・・・・・・・!



レストランへ入ると、すでに涼が椅子に座り、朝食を食べていた。

適当に1人前の食料をトレーにのせると、涼とは少し離れた位置に座り、食べ始める。


すると、少し離れた位置だというのに、涼は周りの目を気にする事なく


「マリアが復帰するまで、また任務は一緒にやる事になったから。

前みたく、無差別に殺すなんて出来ないから、しっかり飯食っとけよ」



そう言うと、トレーを持ち、席を立つ。


ちょっと!そんな話、大きな声で言わないでよ!

恐る恐る周りを見渡すと、アタシ達の会話が聞こえた人達が、食べる手を止め、こちらを見ている。

まるで異物を見るような目。

そんな目つきが・・・・・・・・・・・イラだってくる。



「何見てんのよ?!アタシは女王の直属の部下!

そんな目で見てたら、殺してやるんだからね!」


そう叫ぶと、卵焼きを手で掴むと、それをムシャムシャ口の中に入れる。

お上品に箸なんて使ってる暇はないわ!

だって、今日から自由に人を殺せなくなるんだから!

そうなれば、前見たくまた右手の痛みを紛らわす為に食べなくちゃならなくなる。


アタシの怒鳴り声を聞いた途端、露骨に目をそらし、皆朝食を食べ続けたり、席を立ったりした。

そう、それでいいのよ。

女王の直属の部下である、アタシに対して、失礼な態度を取るなんて許さないんだから!



そうだ、忘れてた。

昨日、アタシ。

任務に失敗したんだったっけ。

だから、これからは堂々と人を殺せないんだ。

不便ね。


部屋に戻ると、髪の毛を乾かす為に、浴室へと入った。

備え付けてある鏡を見ると、


「え・・・・、アタシこんな顔してたんだったっけ?」


久しぶりに見た、自分の顔に驚く。


目がつり上がり、眉間には深い皺の後、それに口がへの字に歪んでいる。

鬼のような表情・・・ってよりも、鬼そのもの。


右手の痛みに振り回されて、鏡を見る余裕なんてなかったけれど、

アタシ・・・・・こんな顔になっちゃったんだ。

それもこれも・・・・全部、全部・・・・・・あいつらのせいだ!



顔まで変わってしまったアタシに、またあいつらは罰を下そうとしている訳?

信じられない!

何処が、優しい人が住みやすい世界にする、よ!

真逆じゃない!

全然住みやすくない!

むしろ、自由が無くなった世界。

鳥かごだわ。




「・・・もう行かないとっ!」


今日からまた、涼と一緒の作業。

少しでも時間に遅れたら、あいつはうるさいんだった。


やっと一人で、伸び伸びと人を殺せると思ったのに・・・・。

それなのに・・・・・・・・!




1階ロビーに降りると、すでに涼が腕組をして待ち構えており、


「遅い!1分の遅刻だ」


たかが1分遅れたくらいなのに、こちらを睨んでくる。



「アタシだって、やる事たくさんあるのよ!

アンタみたく、朝起きて顔も洗わない人間と一緒にしないでちょうだい!」


言い返すが、涼は相変らず怒ったまま。



「・・・悪かったわ。謝るから・・・・、ちょっと待ってて!食料を取ってこないと!」


軽く頭を下げると、フロントへと走っていく。

食べ物が切れると、右手が痛むから。

だから、食べ物を取りのに、



「またかよ。いい加減にその大食い、直せよな」


背後から、涼の呆れた声が聞こえてきた。

・・・・・食べなければ、右手が痛む事知ってる癖に・・・なんでそんな事言うのよ。

やっぱりこいつも、真鍋と女王の犬でしかないのね。

やっと最近、打ち解けてきたと思ったのに。



抱えきれない程の食料を受け取ると、出入り口前に止まっている車に乗りこむ。

また退屈が始まる。

話をして、ポツポツ殺すだけの、つまらない作業が。


あー・・・・・・・・・時間が勿体無い。

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