ミカ 5



丑の刻。


「・・・・そろそろ、ね」


なるべく音を立てないよう、静かにドアノブを回す。

静まり返った廊下を、足音をなるべく立てないよう歩くと、エレベーターに乗り1階へと降りる。

フロントに人は居たけれど、現在の格好は私服。

いつもフロントの前を通る時は、真っ黒のダッサイ制服を着ているから、

まさか私服でウロついてるなんて、考えないだろう!・・・なんて。

無事にホテルを出たアタシは、人通りの少ない路地まで小走りで移動すると、そこでいつものダサい制服の上着を羽織った。



係員のオッサンは、

「今晩はくれぐれも、お静かにお過ごしください」

なんて、言ってたけど、そんなの無理!

右手が痛くて、静かに眠る事なんて出来ないわ!


痛みを止める為には、やるしかないのー・・・・っ!



繁華街から少し離れた公園まで歩くと、そこから人の動きを観察する。

サラリーマンの団体や、合コン帰りみたいな連中など、通る人間は様々だ。


しばらく観察をしていると、カップルが横道へそれていくのが見えた。

二人はどんどん、人通りの少ない道へと歩いていく。

・・・・・・ターゲット発見。

少し距離を開け、そのカップルを付けて行く。


二人はアタシが後をつけている事に気づいてはいない。

完全に人が居ない路地に入った時、左手にカギ鉄鋼を召喚すると、カップルの元へ猛ダッシュ。

その足音に気づき、二人が振り返った頃にはもう手遅れで、

抵抗する間もなく、カップルはアタシの餌食になり、無残に切り刻まれていく。

二人を殺すのに、5分もかからなかった。



「・・・・はぁ・・・はぁ・・・・、楽勝ね・・・・」


不意打ちを狙えば、人なんて簡単に殺す事が出来る。

人を殺せば、右手の痛みは少しずつ引いていく。


夢中で食べる必要なんてないの。

人間なんていくらでも居るんだから、殺せばいい。



「・・・・まだ足りない。痛みは完全に消えてない・・・・」


その後も、人通りの少ない所へ向かう人間を見つけては、後をつけて殺した。

右手の痛みが消えるまで、殺すのはやめなかった。


何人殺したのか?いちいち数えていないからわからないけど、

右手の痛みが消えた頃、アタシはホテルの方向へと歩き始めた。



殺した遺体を隠したりしなかったから、明日のニュースにでもなるかしら?

そしたら、犯人がアタシって疑われちゃう?

でも、そんな事言ったって、右手の痛みを我慢出来なかったんだから、仕方がないじゃない!

痛くて痛くて仕方がないんだし!


いや、大丈夫よ。

だって、さっき涼が言っていたじゃない。

次の任務先が終わってから、罰を与えるって。

って事は、よ?

次の任務が終わるまで、アタシに罰が下る事はないわ。

次の事は、次考える。

今は、この苦痛から逃げる事しか考えられないの。




流石にこの格好でホテルに戻れば、フロントの人間に怪しまれる。

出入り口に入る寸前に、血で汚れた制服を脱ぐと、持っていた袋の中へと入れる。

顔にも血がついているだろうから、それは私服のフードをかぶってなんとか隠した。


完璧。



俯きながらフロントの前を通過し、エレベーターに乗った瞬間、強烈な睡魔に襲われる。

・・・・眠たい・・・・。


そっか。

今日、早起きして討伐に行ったんだった。

で、そこで失敗して、ホテルに戻ってきてからずっと食べっぱなしで・・・・眠い。


今にも崩れ落ちそうだったけど、それを必死に堪えて、なんとか自分の部屋まで歩く。



ようやく中に入り、浴室へ歩こうとした時。

更に急激な睡魔が、アタシを襲ってくる。


まだ、寝ちゃダメ。

顔の血を落とさなくちゃ、ベットに血がついちゃう。

ベットが血だらけになれば、明日部屋を掃除しに来た人が、怪しく思うじゃない。

でも・・・・、ダメだ・・・・・、眠たい。


シャワーを浴びて、血を洗い流さないといけない事を、頭では理解していた。

だけど、身体が動かない。




身体が言う事を聞かない。

アタシの意思じゃなく、別の欲が支配している。




せめて、ベッドで眠ろう・・・。


そう思っていたのに、意識はプッツリ途切れ、ベッドへ辿り着く前に、

まるで気を失うかのように、アタシの意識は途切れた。

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