ミカ 7

「ったく、これじゃあ効率が悪くて仕方がない。

誰のせいでこうなったんだったっけ・・・・・」


車で移動する時はずっと寝ていた癖に、涼はアタシに聞こえるよう大きな声でブツブツ一人言を言ってる。

それを無視して、パンを食べ続けていると、



「何も考えずに、食ってばかりの奴はいいよな。

俺も気楽な立場になりたいよ」


そう言うと、フッと鼻で笑う声が聞こえた。


ムカツク。

グシャっとパンの袋を握り締める。

言い返してやろうかと思ったけれど、こいつと言い合いをした所でバカらしい。

いまの涼に、何を言っても無駄。

自分が一番偉いと勘違いしてるから。


キモイ奴の言う事は、やっぱりキモイのね。

そう自分に言い聞かせたとしても、苛立ちは収まらず。

これから寝る時以外は、こいつと共に行動をしなくちゃならないって思うと、憂鬱すぎ。

ダメ、心を落ち着かせないと。

大きく深呼吸をして、なんとかこの場をやり過ごす。



地獄の移動が終わり、今日の任務先である学校に到着。

車から降りると、


「今日は、校長を殺すなよ」


そんなあいつの言葉に、再び怒りが込み上げる。

やっぱりこいつの、人間性そのものが無理。




校舎内にある客室へと通され、つまらない校長の話を聞く。

誰が悪口を言っただの、誰が教科書を隠しただの、下らなさ過ぎ。


世の中に悪口を1度も言った事がない人間なんていない。

誰でも1度は、悪口なんて言ってるもんよ。

それに、イジメられる方にだって、原因があるって思わない?

アタシがサナエをイジメた原因だってー・・・・・。




「じゃあ、今日討伐する生徒は、2-1の佐藤、宮城、藤吉の3人ですね。了解しました。

では、教室へ案内して下さい」


丁度、ミーティングが終わり、校長と涼が席を立とうとした時。

アタシも勢いよく立ち上がると、



「待って!アタシが殺るわ!3人くらい、軽く殺せるから」


右手の痛みを誤魔化す為、たかが3人だけでも殺したい。

そんな気持ちで、討伐する役目を請け負うとしたのに、



「いや、俺がやる。どういう理由であれ、人を殺すってのに、そんなに活き活きするなんて最低だよ」


そう言うと、涼と校長はアタシを置いて客室を出て行った。



アンタだって同じじゃない!

真鍋と女王の言葉を正当化し、人を殺し続けている。

そんな奴に、最低なんて言われたくない。


誰も居ない客室で、アタシは左手を思いっきり握り締めた。




誰も居ない客室で、ただ食べ続けるっていうのも退屈で。

こんな自由な時間があるのなら、誰かを殺したい。


殺して、痛みから解放されたい。

安心したい。

ゆっくり眠りたい。



・・・そうだ。

今、誰かを殺しに行こう。



監視のつもりで、涼と一緒に行動する事になったんだろうけど、

本人はアタシを置いて、生徒を殺しに行った。

客室からアタシが消えたのも、人を殺したのも、全て涼のせい。

アイツが、アタシから目を離したのが悪いのよ!


そうと決まればー・・・・!


ドアノブを勢いよく回し、客室から一歩出ると、



「おや、ミカさん。どちらへお出かけですか?」


気持ち悪い声が聞こえてくる。

そっとドアの向こう側を見ると、係員がいつもの不気味な笑顔でこちらを見ていた。


マズイ・・・何か言い訳を考えないと・・・・。



「え・・・あぁ、トイレよ。トイレ!

って、アンタこそ何してる訳?そんな所にボサっと立って!」


トイレに行く予定なんてなかったけど、とっさに思いついた言い訳をする。

すると、係員はニタ~っと笑うと、



「あぁ、そうですか。いえ、私は涼さんに頼まれましてね。

ここで誰かが出入りするのを見張るように言われまして・・・」


そんな遠まわしな言い方をしなくたって、わかってるわよ!

アタシがココから出ないよう、涼に言われて見張ってるんでしょ?気持ち悪い!

何が 誰か よ!

誰が、アタシ達みたいな 異質な存在 に、好き好んで会おうとする訳ないじゃない!



「あっそ!アンタに構ってる暇はないの!早くトイレに行かないと!」


係員とは反対側へと、走ると、



「ミカさん。トイレは逆方法ですよ」


まるで全てを見透かしているような、そんなニヤケ顔でこちらを見ていた。

アタシはそんな係員を睨むと、



「知ってるわよ!わざと間違えたの!」


トイレのある方向へと、ズカズカ歩いた。

すると、係員とすれ違う瞬間



「あれ?おかしいなぁ・・。漆黒の翼の操縦者は生理現象が無くなるんじゃなかったでしたっけ?」


あいつはそう呟いた。

・・・・・わかってるなら、止めなさいよ。

しかし、あいつはアタシの事を止める事もしなければ、それ以上は何も言わない。



曲がり角に差し掛かった時、係員の事が気になり後ろを振り返るが、こちらに背をむけたままだった。

なんで止めないの?

知ってる癖に。


・・・・・・・・・アタシが、トイレには行かない事を。

アタシは、トイレとは別方向へと駆け出す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る