消せない傷跡 5
「待って!涼・・・・」
校長と部屋から出て行こうとした時、マリアに呼びとめられた。
振り返ると、マリアが資料を両手に抱え、こちらを見ている。
「何?マリア」
呼び止められた事と、目が合った事が嬉しくて、俺は思わず顔が緩んでしまう。
「討伐しに行くの?・・・・マキの事」
不安そうな顔でこちらを見ているマリア。
もしかして、俺一人でモンスターを討伐しに行く事を、気にかけてくれているのだろうか?
やっぱり、マリアは優しい子だ。
「俺一人で大丈夫だから、マリアはここで休んでいて」
今日は朝から車で長時間移動をした。
珍しく、車内では眠っていたし、これまでの討伐の疲れだって溜まっているはずだ。
休ませてあげたいのと、俺は大丈夫という事を伝え、安心させてあげたい。
ニッコリ微笑み、ドアノブに手を伸ばすと、
「待って!マキは・・・・」
「すぐに討伐してくるって!」
急いで部屋を出た。
マリアに心配をかけちゃいけない。
俺が見たいのは、困った顔ではなくて、笑顔だから。
つーか俺、もしかして、マリアに恋しちゃってる?・・・・まさかね。
静かな廊下を、校長と二人で歩く。
「マキは何処に居ますか?」
「その・・あの・・・、教室に居ます」
「他の3人は?」
「3人も、教室に居ます・・・・」
オドオドと話す校長。
剣で脅してからは、またヘコヘコ低姿勢に戻った。
マジで、プライドのない男だ。
そして、4人全員が集まっているのも好都合だった。
イジメた憎き主犯格を、3人の前で無残に殺してあげる。
そうすれば、カナコがイジメにより受けた心の傷も、少しは癒えるだろう。
イジメにより、受けた傷を癒してあげたい。
俺も、イジメられた側の人間だから。
あっという間に、教室の前にたどり着く。
扉に耳を当てると、室内から、ゴニョゴニョ話し声が聞こえてきた。
よく聞き取れなかったけれど、校長が言った通り、中に複数の人間が居るのは確かだ。
よし、やるか!
気合を入れると、ふぅっと息を吐く。
そして、覚悟を決めた後、勢いよく教室の扉を開いた。
ガラっ。
勢いよく扉を開くと、それまでヒソヒソ話をしていた4人が一斉に黙り、こちらを振り返った。
位置的には、サヤ、ヒトミ、カナコの3人が窓側におリ、マキは一人教壇の前に立っている。
今まで、イジメっ子のリーダーだったマキが孤立しているのは、俺達がこの学校に訪れたからだろう。
俺達の力が、少しずつ、世間に浸透してきている。
それが、今のこの4人の立ち位置に、よく表れていると思う。
ふぅっと、息を吐くと、
「女王陛下から直々に命を受け、ここに来た。
俺達がここに来た意味は・・・・わかるよね?」
そう言うと、一歩ずつ、ゆっくり室内へと入る。
すると、予想外にイジメっ子であるマキが、万遍の笑みを浮かべ、
「あっ・・・、まさか本当に来てくれるなんて思わなかった!・・・嬉しい・・・・」
言い終ると、両手で口を押える。
感極まっているみたいだ。
はぁ?なんで、イジメっ子であるお前が喜んでるんだよ。
まさか、自分が証言した事を、俺達が信じたとでも思っているのか?ずうずうしい。
マキ以外の3人は、イジメの首謀者がマキだと話してるなんて、思ってもいないのだろう。
愚かな女だ。
「・・・へぇ・・・。喜んでくれて嬉しいよ。
ねぇ、君たちはどうかな?俺達が来て、嬉しいだろ?嬉しいよね?」
窓側に居る3人に声をかける。
こっちの3人こそ、俺達が来れば、泣いて喜ぶと思っていたのに、
先ほどから、固く苦い表情をし続けている。
俺達が目の前に来て、緊張しているのかな?
それとも、イジメの首謀者がマキであるという事がバレた以上、その仕返しが怖くて笑えなくなっているのかな?
どちらにしても、早く諸悪の根源を処分しなくては・・・・。
「ずうずうしい。
醜く汚い人間だ。
そうは思わないか?
他人をイジメときながら、それを他人のせいにし、ヘラっとした顔で、ここに立っているのだから」
マキに対して、嫌味を言ったつもりなのに、肝心の本人は、
「うん・・・うん・・・」
と、キラキラした眼差しで俺の事を見つめている。
何勘違いしてるんだよ、バカ。
一方の3人は、ガクガク震え始めた。
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