第120話人とモンスター19

ホテルの出入り口の前。

自動ドアをすり抜け、物音一つしないロビーに足を一歩踏み入れる。


・・・・こんな時間だ。

フロントにくらいしか人は居ないだろう。


そんな事、理解していたはずなのに、フロア内を一通り見渡す。

すると、ソファに見慣れた背中が見えた。

身長が高いあいつは、立っていたら俺が見上げてしまう程大きな存在感なのに、

今ソファにうずくまるあいつの背中はとても小さくて弱弱しく見える。

・・・・不思議だ。

これも俺が強くなったという証なのだろうか?




傍まで近寄るが、こちらに気づいている様子はない。

深刻に何かを考えている様子だ。



「・・・・ぁっ・・・・」


声をかけようにも、何を言えばいいのか?わからない。

っていうか俺。

なんで大嫌いなハヤトに声をかけようとしてんの?



・・・・バカバカしい。

早く部屋に戻って、この汚らしい血痕を洗い流そう。



ハヤトに背を向けて、エレベーターへ向かって歩き始めると、



「・・・・あれ?涼、もう戻ってきたのか・・・・?」


聞きなれた声に呼び止められる。

振り返ると、ハヤトがこちらを見ている。



「あぁ、もう用事は済んだから」


1歩ハヤトに近づくと、それまで普通だったあいつの顔が途端に歪み始める。




「・・・・・お前、どうしたんだよ・・・・。その顔」


眉間に皺を寄せ、まるで汚物を見るような目つき。

本当にこいつは、俺をイラつかせてばかりだ。




「あぁ、これ汚いだろ?任務をこなしてきたんだ。疲れたから、さっさとシャワーを浴びて寝るよ」


ロクに任務に参加する事もなく、綺麗毎ばかり言うこいつにそんな目で見られるなんて屈辱だ。

でも、全身血まみれで汚いのは事実。

任務をこなしてきたんだから、仕方がないだろう?

まぁそんな理屈、こいつには通じないんだろうけど。


顔を袖でこする仕草をする。

そんな事をしたって乾いてこびりついたアレは、シャワーとボディソープでしっかり洗い流さないと落ちないんだけど。

だけど、あんな目で見られたんだ。

少しくらい、意味のないアピールをしたくもなるだろ。


「任務って何だよ?お前は・・・・お母さんと一緒に家に帰ったはずだろ・・・・?」


相変らず、汚物を見るような目でこちらを見ている。

かすかに唇を噛み締めながら。



「そうだよ。そんな事、わざわざ聞かなくても知っているだろ。

お前が無理やり、俺の事を実家に戻したんだから」


そんなハヤトの行動が面白くて、半笑いで答える俺。



「なら、なんでこんな真夜中に戻ってくる?お母さん達はどうした?」


段々ハヤトの声が怒鳴り声に変わっていく。

何をそんなにイラついているのだろうか?



「お母さん?・・・・・あぁ、家に置いて来たけど」


そんな事を聞いてどうするのだろうか?

もしかして、アレを処分する手配でも、してくれるか?

あぁ、そっか。

こいつお節介焼きだったっけ。



「家に置いて来たって・・・・・どういう事だよ!

お前・・・・・、まさかその血・・・・っ!」


ハヤトはソファから立ち上がると、キッと俺の事を睨みつける。

今にも殴りかかってきそうな雰囲気だ。



「置いて来たって、意味はそのまんま。

ここまでどうやって持ってくるとでも言うんだよ。


まさか、俺一人で、2つ分担いでホテルまで持って来いとでも言うのか?

無理に決まってるだろ。

アレは重たいし、ここまで戻るにしても目立ちすぎる。


第一、途中で他のモンスターを討伐する時に邪魔になるだろ。

そもそも俺達は、モンスターを討伐するのが任務であり、遺体を処分するのは含まれてないんだか・・・・」



と、話している途中で、



バキっ。



右頬に鈍い痛みが走る。



「いてぇっ・・・・・」


口内に妙な味が広がった。

今の衝撃で、口の中が切れたのだろう。

一足遅れて、ジワリジワリと痛みが走る、



くそっ!ハヤトの野郎!

ロクにモンスターの1匹も討伐しないあいつが、突然俺の右頬にストレートをぶち込みやがった。

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