第121話人とモンスター20

「・・・・何してるんだよ!バカがっ!

ロクにモンスターの1匹も討伐出来ないお前が、リーダーである俺を殴るなんて・・・・!」


殴られた事に苛立った俺も声をあげる。

すると、怒ったと思えば、突然悲しそうな顔をするハヤト。



「何故家族を殺した?・・・・どうして・・・・っ」


クルクル表情が変わっていくこいつの態度に、俺は苛立ちも一瞬で消え去り、苦笑いを浮かべるようになっていた。


なんだ、こいつ。

情緒不安定って奴か?



「どうして?・・・法律違反をしたからさ。だから殺した。それがどうかした?」


それ以外に、なんの理由がある?

俺だって、人間。

意味も無く、人を殺すなんて恐ろしい事、やらないさ。




「それがどうしたって・・・・・、家族だろ?

ずっと一緒に住んできたんだろ?ここまでお前を、育てて貰ったんだろ?

それなのに、ただ法律違反したから殺すだなんて・・・・・」




こいつは何もわかっちゃいない。

再び怒りが込み上げてくる。




「一緒に住んできた?ここまで育てて貰った?ただ法律違反をした?

・・・・何言ってるんだよ!お前自分が何を言ってるのか、わかっているのか?


俺がどんな思いで、ここまで必死に生きてきたと思うんだ!

頑張ってここまで登りつめたのに、あいつらと来たら、俺から金をむしりとる事しか考えていない!

所詮あいつらにとって、俺は 物 なんだ。人間じゃない。

そんな奴らの事を、 家族 と思い、大切にしろ、恩を返せとお前は自分の考えを押し付けるというのか!


それに、家族が法律違反をしたら許せとお前は言うけど、正気で言ってんの?

ただ家族って理由だけで、大量殺人を家族が犯しても、お前はそれを見逃すと言ってるのか?

バカだろ?そんな理屈通用しない。

家族でも、法律違反は法律違反。

贔屓なんてしない、討伐するのみ、だ」



言いたい事を全て吐き出すと、ハヤトに背を向け、エレベーターに向かって歩き始めた。

こいつと喋るのは、やはり時間の無駄。

考え方なんて、何1つ合わない。



「違うよ、涼。・・・・・僕は、お前に 人間の心 を少しでも、持っていて欲しかっただけなんだ。

ただ、それだけで・・・・・、お前が悲しそうだったから・・・・・」



背後から、今にも泣きそうな声で必死に囁く声が聞こえてくる。

しかし俺は、それを無視をした。


俺はまだ、人間の心を持っている。

頭がオカシイのはお前の方だ。




別に、悲しくなんてない。

ただ、もう2度と、お母さんに褒めて貰えないって事だけが、気がかりなだけだ。


翌日。

レストランに顔を出すと、すでに椅子に座り、朝食を食べているマリアとミカの姿が見えた。

ミカは相変らず、恐ろしい程の食欲で、目の前にある食べ物に食らい付き、

マリアは、無表情でまるで作業のように、食事を口へ運ぶ。

二人の姿は、対照的だ。

ハヤトの姿は見えなかった。

・・・・まぁ、真夜中のあの出来事があったんだ。

顔合わせたくなかったけど。



適当に食事をトレーにのせると、マリアの斜め前の席に座る。

他にも空席はあったのだけど、なんとなくそこを選んだ。

ミカの近くに座るなんて、ごめんだしね。


マリアは一瞬こちらを見上げたけど、すぐに視線を下ろし、黙々と食事を続けた。

なんとなく、喋るタイミングを失った俺も、箸を手に取ると、食事をし始める。




5分くらい経った頃。


「昨日は・・・・・、どうだったの?」


前方から、声が聞こえた。

それはマリアの声で、突然話しかけられた俺は


「えっ?」


思わず気の抜けた返事をしてしまう。




「昨日帰ったでしょ。久しぶりに家族と会うって、どんな感じ?

・・・・私、家族が居ないからわからないの・・・・」


いつもにも増して、ボソボソ話すマリアの表情は、相変らずの無表情だ。

しかし、他人に一切干渉しようとしない彼女が、一生懸命話を聞こうとするその姿勢から察するに、相当気になっているに事に違いない。



俺にとって、マリアは良き相棒。

聞かれたのなら、快く答えたい所なんだけど・・・・。

生憎、うちの家族関係は、一般的なソレとは違い、少し特殊を帯びている。

むしろ、家族は俺の事を 家族の一人 とは思っていない。

まぁ、その家族ももうこの世に居ないんだけど。


この時、いつもは大嫌いなハヤトの事を、少し羨ましいと思ってしまった。

あいつなら、喜んで家族の話を自慢気に話すんだろうな・・・・。




「まぁ・・・・・、普通だよ。別に何でもない」


実は、俺家族の中で浮いてたんだ!・・・・なんて、カッコ悪くて言えなかった。

だから、なんとなく無難な返答をする。



「普通?・・・どんな感じだろう?私、生まれてすぐに施設に預けられて育ったから、普通がわからないの」


すると、マリアは一番食いついて欲しくない所に食いついてきた。

そこを一番、流して欲しかったのに。

普通がどんな感じか?なんて・・・・、俺もわかんねぇよ。

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