第119話人とモンスター18

「あぁ、つまんねーの!次だっ!」


残りのモンスターを殺す為、振り返るが、もうそこには誰も居なかった。

厨房内には、剣を持った俺が一人佇んでいるだけ。



まさか、こいつを殺すのに夢中になってる間に、逃げられた?

嫌な予感がする。

犯罪者を逃がすなんて・・・・・、汚点だ。



くそっ!やられた!



俺の悪口を言った人間を、全員殺せなかった!

それもこれも、こいつを殺すのに時間をかけたせいだ!!



「くそっ!くそっ!くそっ!」


動かぬ物を何度も蹴る。

腹が立つ。

イライラする。

それもこれも、全部こいつのせいだ!!



モンスターは生きている事すら罪なのに、いつもこいつらは俺の心に傷を負わせる。

兄だってそうだ!

死ぬ間際に、あんな言葉を残しやがって!

あんな事を言われた所で、俺の心が救われる事なんてないのに!


母さんだって、1度も俺の事を愛してはくれなかった!

いつもいつも、俺を苦しめてばかり!

愛してくれないなら、どうして俺の事を生んだんだ!



やるせない思い。

発散したかった。

爆発させたかった。




「なんでだよぉおおおおおっ!どいつもこいつも皆勝手な事ばっかりしやがってっ!!!

俺はただ・・・・・・ただ、静かに・・・・・何も怯えずに暮らせる世界を作りたかっただけなのに・・・・・・」



内側から込み上げてくる、苦しい感情。

目頭が熱くなる感覚。

しかし、目から何かが流れる事もなく、俺はただその場に立ち尽くすだけ。



この感覚・・・・・なんだったっけ?

もう、その行為を出来なくなってから、時間が経ちすぎて、それが何なのか?もわからない。



俺、今、どうしちゃったんだろう?


ここに留まっていても仕方がない。

早くホテルへ帰ろう。

この血で汚れた身体を早く洗いたい。



厨房を、後一歩で出ようとしたその時。



あ、そうだ。

テーブル席に座る人たちに、謝らなくちゃ。



テーブル席で、黙って座っていた人たちの事を思い出した。



彼らは何も悪い事はしていない。

ただ、食事をしに来た常識ある優しい人たちだ。

食事の時間を、モンスター討伐という任務とはいえ、

俺が邪魔をし、ぶち壊した事は、謝罪しなくてはならない。



血で汚れた顔を、袖でゴシゴシと拭くと、テーブル席へと歩いた。



「邪魔しちゃって、すみません」



頭を下げながら、謝罪するが、返事はない。

どうしたのだろう?

まだ、皆ビックリして声も出ないのだろうか?



顔を上げると、そこにはもう誰も居なかった。

店内で生きている人間は俺一人。

皆、気づかぬ間に、どこかへ逃げていったのだ。




「くそっ!ふざけやがってっ!」


フツフツと湧き上がる苛立ち。

それを押える事が出来ず、目の前にある椅子を、蹴り上げた。



あぁ、騙された。

優しい人間だと思っていたのに、犯罪者だったのか。

金を払わず、外へ出るなんて、食い逃げ。

立派な犯罪だ!!!




驚かせた事は悪いと思っている。

でも、それは法律が変わったのだから、仕方がないだろう。

それを理解しようとせず、逃げたあいつらは、全員犯罪者。

殺さなくては・・・・・!



と思っても、誰がそこに居たのか?はわからない。

ここは我慢して、ホテルへ戻るしかなかった。

唇を噛み締めながら、ホテルへとトボトボ歩いていく。



頭の中を駆け巡るのは、また、犯罪者を取り逃がしたという、モヤモヤした気持ちだけ。

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