第118話人とモンスター17
厨房に入ると、目の前にコック用の制服を着た男が立ち憚る。
「お客様!!こっ、困ります!ここは関係者以外はたっ・・・・」
うるせーよ、邪魔だ。
何かベラベラ喋っていたけど、その声に耳を傾ける事もなく、男を切り捨てる。
血を噴出しながら、崩れるモンスター。
それを見ていた別の人間は、
「猟奇殺人犯だ!逃げろ!」
「あいつは頭が狂ってる!」
大きな声で、俺の悪口を言うと、逃げていく。
「黙れ犯罪者が!俺を傷つけた罪を償え!」
犯罪者を逃がしてたまるか!
パラパラ逃げていくモンスターの背中を、追いかける。
慌てているせいで、扉の鍵を開けるのに手こずっている間に、背中からバッサリ斬り捨てた。
犯罪者は大人しく、殺されろよ。
すると、また別のモンスターが
「調子に乗ってるんじゃねーよ!キモ男がっ!」
罵声を飛ばしながら、包丁を片手に襲い掛かってきた。
その叫び声でギリギリ致命傷を避ける事は出来たものの、包丁の先端が右頬をかする。
「っ!・・・・」
右の頬に出来た10cm程の傷。
そこからうっすら血が流れる。
漆黒の翼があるとはいえ、右手以外は生身の人間とそんなに変わらない。
むしろ栄養を漆黒の翼に吸い取られている分、怪我をすれば傷口は癒される事なく永遠にその痛みに苦しむ事になる。
ミカみたいに。
凄く痛いわけじゃない。
だって、かすり傷だから。
でも、ジワジワとした痛みは止まる事はなかった。
この痛みを、俺は一生背負わなくてはならないのか・・・・・・。
英雄になる事を約束された俺の顔に、傷をつけやがってっ!
頭の中で、何かが外れる音が聞こえた。
「このくそがっ!」
「うわああああっ!」
左足の小指を切断した。
これで指と呼ばれる物は、こいつの身体にはない。
手と足、全ての指を一本一本切断してやった。
楽には殺さない。
俺の顔に傷をつけた罪、自分の身体で償え。
「次はどうして欲しい?耳を削ぎ落としてやろうか?鼻を削ろうか?
それとも、手をみじん切りにしてやろうか?ふふっ・・・・ははっははっは!」
転がる物の叫び声と、俺の笑い声が厨房内に響く。
気持ちがいいな・・・・・、最高の気分だ。
。
俺は、酔っていた。
この絶対的な力と権力に。
すると、物は涙と鼻水で顔をビチャビチャにさせながら、
「たっ、助けて下さい・・・。すみませんでしたぁ・・・・」
必死に命乞いをし始めた。
それを見た時、脳裏に忌々しい思い出がまるで走馬灯のように蘇ってくる。
石川、藤井、志田。
俺の事をイジメていた癖に、その罪を償おうとはせず、
教室で必死に命乞いをしていたあの醜い姿をー・・・・・。
「命乞いなんて、してるんじゃねーよ!クソがっ!
謝るくらいなら、やるんじゃねぇえええええええええ!!!!」
そう叫ぶと、口の中から剣をぶっ刺す。
もう二度と喋れないように、喉を潰してやるんだ!
剣を抜くと、物は口から血を吹きながら倒れこんだ。
「さあっ!次は何処を刺して欲しい?足か?腕か?それとも頭か?ははっ・・はははっ・・・!」
気づけば、厨房内には俺の笑い声だけが響いていた。
物はうめき声の1つも上げようとはしない。
「おい、どうした?何か叫べよ」
倒れこんだ物を蹴るが、ただ転がるだけ。
「は?もしかして死んでんの?何勝手に死んでるんだよぉおおおお!!!!」
更にガンガン蹴り飛ばすが、ビクともしない。
物はまるで人形のように、黙ったまま転がるのみ。
叫び声の1つもあげなければ、逃げようともしない。
つまらない、ただの 物 になっていた。
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