第113話人とモンスター12

「な、何言ってるんだよ・・・・。

俺だって人間なんだから、嫌な思いなんてしたくない!

イジメられるのも、母さんに悪態をつかれるのも嫌なんだ!」


酷い剣幕でこちらに歩み寄ってくる兄に恐怖を感じた俺は、一歩ずつ後ずさりをする。

兄ちゃんは何を言っているんだろう。

俺と兄は家族なのだから、他人よりも数倍俺の気持ちを理解してくれるはずなのに。

だってそうだろ?

俺とお兄ちゃんは、かけがえのない兄弟なんだから!





「あ?お前が嫌な思いをするとか、イジメられるとか俺には関係ないんだよ!」


頭の中で、何かが割れる音がした。




「お前が母さんに攻撃されとけば、俺が肩身の狭い思いをしなくて済んだのに!」


やめてよ。




「お前はそういう人間なんだ。生まれた時からの負け犬。捨て駒」


折角収まっていた あの衝動が 再びジワジワと沸き起こってくるじゃないか。




「お前がClearSkyに入らなければ、こんな事にはならなかった」


たった二人だけの兄弟なのに、何故憎みあう必要がある?




「一生、母さんのお守りをしてくれれば良かったのに」


そっか、だからこそ俺がヤらなくてはいけないのか。



「イジメも悪態つかれるのも嫌だ?贅沢言ってるんじゃねぇよ!クズが!」


たった二人だけの兄弟だから。




「生きれる事をありがたく思え!そして俺の生活を壊した罪を償え!

一生、俺の面倒を見ろ!養うという形でな!」


だから、俺が最後までしっかり面倒を見なくちゃ・・・・。



気づけば俺は、廊下の壁まで押しやられていた。

そこまで追い詰めると、兄は右腕に拳を作り構える。




「コレは、俺に歯向かった罰だ。覚悟しろ」


そして、それを勢いよく、俺の左の頬目掛けて振り下ろした。


「ぐっあああああああっ!」


顔に血痕が飛んできた。

あぁ、折角風呂に入って綺麗にしたのに、また汚れてしまった。



兄の右手に、剣を突き刺す。

本当は楽に殺す予定だったけど、仕方がない。

だって、兄ちゃんが悪いんだ。

俺を殴ろうとするから。



兄は大きな叫び声を上げると、左手で右手を押さえながら、その場に崩れ落ちた。

傍まで歩いて行くと、



「兄ちゃん、ダメじゃないか。悪口を言ったら。

家族とはいえ、他人を傷つけたら、モンスターと判断され、死刑になるんだ。

一瞬見逃そうと思ったけど、無理。

だって、俺傷ついたもん。

兄ちゃんに暴言吐かれてさ。

謝っても許さないよ。


しかも兄ちゃんは、ニートの引篭もりだしね。

生きる価値ないよ。だから殺す」



兄に剣を振り下ろそうとした時、




「何やってんのよ!!!!」


母の怒鳴り声が聞こえ、俺はそちらに視線を移した。

勢いよく階段を駆け上ってきた母は、俺と兄の異様な光景を目撃すると、




「涼・・・・!アンタまさか・・・・・」


そう呟くと、俺の事を突き飛ばし、兄を抱きしめる。

え?・・・・・違うよ、母さん。

これには訳があって・・・・・。



「あの・・・・、違うんだ。コレは・・・・その・・・」


状況を説明しようとしても、



「大丈夫?これ、あいつにやられたの?血を止めなくちゃ!」


俺の事なんて、視界にも入れようともせず、母は兄の右腕に布を巻く。

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