第112話人とモンスター 11



「こっ、殺す!・・・・ほ、本気だっ!」


剣を出現させると、先端を兄に向けた。

武器を持っているのは、俺のはずなのに、剣が出ている右打てで酷く振るえ、先端がブルブル震えている。


怖くない!こんな廃人に恐れる必要はないんだ!

そう自分に言い聞かせても、手足の振るえは止まらない。




しばらく、硬直状態が続いた後、静かに兄は口を開いた。


「・・・・・・・・・・お前が悪いんだ」


それはとても小さな声で、音楽プレイヤーでも再生していたら、聞こえない位だ。

俺が悪い?

仕事を辞めたのも、部屋に閉じ篭っているのも、自分のせいなのに、責任を押し付けるというのか。



「な・・・んで俺が悪いんだよ。兄ちゃんが仕事を辞めた事と、俺は無関係だろ」



相変らず、死んだ魚の目で兄は俺を見ている。

全く視線がブレないのが、恐怖心に拍車をかける。



「・・・・全部お前が悪い。

仕事を辞める事になったのも、俺が部屋から出られないのも、外出出来ないのも。

全てお前のせいだ。

財布の金は、俺に迷惑をかけた慰謝料として受け取っただけ。

でも、まだ足りない。

早く給料全額、母さんに渡せよ」


・・・・・狂ってる。

どうやら、もう戻れない場所に行ってしまったみたいだ。

脳が犯されてしまい・・・・・・モンスターと化している。

覚悟を決めるか。



俺は兄を殺す覚悟を決めた。


自分がした行動を他人に押し付け、自分は被害者ヅラだけをし、何も動こうとしない。

そんな兄の態度に、嫌気が差したんだ。

このまま生きていても、こいつは国の為どころか、ただの家族のお荷物。

邪魔なだけ。


なら、いっそここで殺してしまおう。

それが、この家の為にもなる。



隙をついて、首を跳ねようとした時、



「お前が居なくなって、母さんは俺をイビるようになったんだ。

お前が居る頃は、適当にお前の愚痴を母さんに吹き込んどけば、標的はお前に流れたのに。

家から出て行った上、大金を毎月うちに振り込んできた今、

標的は自然に俺へと流れた。

捨て駒の癖に、何やってるんだよ」



死んだ目をした兄が、まるで壊れたスピーカーのように喋り始める。


「なんの為に、今まで母さんにお前の愚痴を吹き込んでいたと思うんだ。

これも全て、俺が対象にならないよう、回避する為だったのに。

それなのに、お前は家を出て、大金を送るようになった。

出来損ないが、形勢逆転、一家の大黒柱に昇格だよ。


お前の事なんて大嫌いで、いつも愚痴しか言わなかった母さんが、

どんどんニコニコ自慢するようになり、逆に俺の事を、まるで虫を見るような目で見てきた。

今まで必死に、母さんのご機嫌を取っていた俺が、だ。

どうして俺がこんな目に合わなくちゃならないんだ・・・・」



え・・・?どういう事・・・?

あまりに挑発的過ぎて、理解が出来ない。

母さんが俺の事を嫌っていたのは、学校の奴らのせいじゃなかったの?

俺・・・・・・、家族に裏切られていた訳?




「会社でも、頑張って仕事してるのに、お前は努力が足りない!とか怒られるし、

たった5分遅刻しただけで、1時間遅刻した奴と一緒に2時間も説教されるし、

家でも会社でも、怒られっ放しで、頑張る気力が無くなったよ」



昔の俺と同じ思いを、兄もしていたのか。

学校でも家でも、居場所が無かった昔の俺。

でも俺は、学校を休まず通い続けた!

グチも言わず、あの地獄のような日々に耐え続けたのにっ・・・・・!




腕から剣を片付けると、力強く兄の目を見つめ直した。


「兄ちゃんは、我慢が足りないよ。

お、俺だって・・・・・、本当は学校でずっとイジメられてて・・・、

凄くつらくて・・・・・、居場所が無かったけど・・・・、それでも学校に通い続けた。

そうしなくちゃ生き続ける事が出来なかったから!・・・・だから、兄ちゃんも・・・・・」



兄ちゃんの言い分は、俺には通用しないから。

だから、昔の俺の事を話した。

今では、こうした誇り高きポジションに居るけど、昔の俺は居場所が何処にも無いイジメられっ子だったから。

変わって欲しかった。

兄ちゃんには、もう一度頑張って人間らしい生活を取り戻してほしかったんだ。




しかし、兄は俺の言葉を聞いた途端、目の色をキッと変えると、



「お前がイジメられたなんて知らねぇんだよ!!!

つーか、お前はそういうキャラなんだから、それくらい我慢しろ!!!雑魚が、調子乗ってるんじゃねぇぞ!!!

もう俺は、傷つくのは嫌だ!!!

こうなったのも、全部お前のせいだ!!!

一生俺が死ぬまで、養え!!!金を振り込めよ!!!

そうすれば、俺が家に居ても、母さんにネチネチ愚痴られずに済むんだから!!!」


怒鳴りながら、こちらへ歩いてくる。

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