第102話人とモンスター 1

ピチャ・・・ピチャ・・・。


静かな廊下に響く、水の音。

俺が歩くたびに、手に持っている 物 から、血がポタポタと流れ落ちる。

まるでそれは、俺が向かう場所への目印を刻み込んでいるみたいだ。

まぁ、目印を付けた所で、俺の事を探そうとする奴なんて、居ないだろうけど。



校内のモンスターの事は、大体討伐した。

お陰で、悲鳴の一つも聞こえやしない。


これだけ討伐したんだ。

任務完了とし、ホテルに戻り、全身に付いた汚い血痕を洗い流したい所だけど、

まだ校内を歩き回る自分が居た。



まだだ。

まだ終わりじゃない。

後一人、会いたい人間が居る。




1階にある職員室の前にたどり着いた。

物音が聞こえた訳ではないけれど、これだけ校内を歩き回って探しても見つからなかったんだ。

ココに居るとしか、思えない。



ガラガラ・・・・。



ゆっくり扉を開けると、



ガタッ。


椅子が動く音と共に、



「ヒィッ・・・・」


微かに、女の悲鳴が聞こえた。


やっぱり、あの人はココに居るんだ。

しかし、立った状態では見えない。

という事は、志田や石川みたいに、机の下に潜り込んでるって訳か。




酷いなぁ・・・・。

教え子が久しぶりに母校に顔を出したっていうのに、かくれんぼするなんて。




ゆっくり一つ一つ机の下を覗いて行く。

そちらが隠れたままなら、こちらから顔を見に行こうじゃないか。




「・・・・ここでもない・・・・」


後見ていない机の下は、残り一つ。



「・・・・はぁ・・・・・・」


ため息が聞こえた。

やっぱりココに居るんだ。


やっと会えた、探したんだよ。



あの時、微笑みながら言っただろう。

「この教室の中に、漆黒の翼の適合者が居るかも知れない」って。

俺だよ!イジメられっ子でどうしようもなかった俺が、適合したんだ!

まだ、たった4人しか居ない、漆黒の翼を操っているんだ!

今、貴女の前で、数え切れない程のモンスターを討伐したんだ!


褒めてくれよ。

俺の目を見て。

昔、俺の目を見るなんて、一度も有り得なかった。

いつも、俺の事を視界から消していた。

なんで?どうして?俺だって、生徒の一人だったのに!

凄く悲しかった。

辛くて、どうしようもなかったんだ。


でも、今の俺なら、目を見て話してくれるだろう?

楽しみにして来たのに。

隠れたなんて、酷すぎる。




机の前まで行くと、椅子を縦にし机の下に隠れている先生と目があった。

でも、何故だろう。

ガタガタ振るえながら、怯えた顔でこちらを見ているのは?


でも、見てくれた。

やっと俺の事を視界に入れてくれた!

嬉しくて、ニヤケ顔を隠す事が出来ない。



椅子を避けると、先生の前に左手に持っている 物 を突き出す。



「ねぇ!先生!見てよ!俺!Clearskyで働いているんだよ!

女王陛下から、直属の指示を受けて動いているんだ!

こっちの手見てよ!これ、漆黒の翼なんだぜ、勿論本物!

切れ味なんて最高で、モンスターの首なんて軽く一撥ねだ!


この前なんて、女王陛下と一緒に食事だってしたんだよ、凄いでしょ!

それで、モンスターを討伐したんだ!

何やっても、ダメでバカにされていた俺だけど、こんなに重要な任務をこなしているんだよ!

ねぇ!凄いでしょ? 褒めてよ!ねぇ!!」


必死に先生に訴えかける。

言いたい事がたくさんあり過ぎて、喋るのを止める事が出来ない。

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