第103話人とモンスター 2

「ねぇ!先生・・・・!ねぇ!ねぇ・・・・・」



こんなにもたくさん訴えかけているのに、先生は険しい顔をしたまま言葉を発しようとしない。

どうしたんだ?

驚いているのか?

大人しかったイジメられっ子の俺が、大出世した事を。

まぁ、無理もないか。

俺みたいな、教室の脇役が世界に関わる仕事に携わっているのだから。



「ねぇ!先生!俺、凄く傷ついたんだよ!

ずっと助けて欲しかったのに、先生は一度も助けてはくれなかった!

いつも見て見ぬ振り。

許せなかった、憎くて仕方がなかった。

でも、許してあげるよ。

先生だって大変だったんでしょ?

俺をかばえば、次は先生が生徒に嫌がらせをされる。

だから、俺を見捨てた。

先生という立場でありながら、自分の事を守る為に俺を見捨てたんだ。

弱くてプライドが高いクズ。

それが、先生っていう人間なんだろう?」



こんなクズが、なんで教師なんてやっているんだよ・・・・・。

お前は、自分にとって 手のかからない生徒 だけが可愛い。

メンドクサイ生徒なんて、ゴミとして扱う。

それをわかっていたから、悔しくて、悲しかった。

俺は、この人にとって ゴミ なんだって。



「俺にも弱い部分はあるから・・・・、だから先生の事は許すよ。

楽に殺してあげる。

一瞬で首を跳ねてあげるから、机の下から出ておいでよ!」



万遍の笑みで先生に話しかけた。

これは、俺から弱い先生への恩返しだ。

感謝してくれる!褒めてくれる!・・・・・そう思っていたのに、先生の口から出た言葉は・・・・・。



「ほ、北条君・・・・・、お友達を殺したの・・・・?」


震える指で、俺の左手に持っている 物 を指差す。



「お友達?何言ってるんですか?俺、友達なんで殺してませんよ」


思わぬ発言に、俺は笑い転げる。

しかし、先生は相変らず固い表情のまま、



「だって・・・・、その手に持ってる首・・・・、藤井君と石川君と志田さんでしょ・・・・?

何故、殺したの・・・・・?いつも仲良く4人で遊んでいたじゃない・・・・・」


うっすら涙を浮かべ始めた。

友達?仲良く遊んでいた?

何言ってるんだ?こいつ。

それ、本気で言っているのか?


あぁ、そっか、こいつは人間だと思っていたけど、 モンスター だったんだ。

だから、オカシな事ばかり言ってるんだな。


ニヤケ顔が一変し、無表情へと変わる。




「お前、目腐ってんじゃねーの?」


ガンっ と、目の前にあった椅子を蹴り飛ばす。

椅子は別の机にぶつかると、ドンっと大きな音を立てて静止した。

その物音に驚いたのか?先生の身体が一瞬ビクつく。




「あれの、何処が遊んでるように見えた訳?

友達が殴ったり、蹴ったりするか?普通・・・・しないだろうが!!」


大きな声で怒鳴ると、また先生の身体はビクついた。

目の前に居る先生は、まるで あの時 の俺みたいだ。




「学校に行っても、机も椅子もない。

探しに行き、授業に遅れれば、先生に怒られる。

普通気づくだろ?毎日そんな事が起れば、オカシイって・・・・!」


やり返す事も出来ず、ただ黙って耐えるだけのあの時の俺。

無力で、生きている意味を見出す事が出来なかった俺。

誰にも必要とされなかった俺。

死にたくなくて、必死に生にしがみついていた、愚かで惨めな俺。




「・・・・辛かったのに・・・・・・、助けて・・・欲しかったのに・・・・・」


言葉が上手く出てこない。

目の奥が、カーッと熱くなってきた。

涙なんて、零れる事は、もうないのに・・・・・。



俯き、黙り込む。

そんな俺の姿を見た先生が、



「北条君・・・・、貴方をそこまで追い詰めてしまって、ごめんなさい・・・・・っ」


ポツリと呟くと、泣き崩れた。



ごめんなさい・・・・?

なんで、先生は俺に、謝るんだ?

今の俺は、誰からも尊敬される人間なのに。

追い詰めてしまったって、何の事?

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