第84話改革 5

「有り得ないっ!」


テーブルをドンっと叩くと、ハヤトは勢いよく立ち上がった。

何処へ行こうとしているのか?、聞かなくても、なんとなくわかる。

きっと、ミカの所だ。


ミカが今、何処に居るのか?もわからないし、

例えハヤトが行った所で、何も変わらないのに。



「待てよ。お前が行って、邪魔になるだけだって」


正論を述べたつもりだった。

それなのに、自分の事しか考えていない良い子ちゃん気取りのハヤトの勘に障ったらしく、


「なんだと?!なら、ここで何もせず大人しく座っていろとでも言うのかよ!」


怒りを俺にぶつけてくる。

暑苦しい奴。

これがミカじゃなくて、俺だったとしたら、同じくここまで怒りを露わにしてくれたのだろうか?

いや、きっとしない。

だってこいつ、俺の事嫌いだから。

俺が泣き叫んだ所で、きっとこいつはあざ笑うに違いない。

こいつは、そういう奴だ。



「落ち着けって。

多分、指は本当に切られたとは思う。

ミカの泣き叫び方がリアルだったしね。

けど、もう傷は塞がってるよ」


「なんでお前にそんな事がわかるんだよ!」


冷静に話す俺と、怒鳴り口調なハヤト。

いつもなら、立場は逆だ。



「薬があるんだ。

俺達漆黒の翼を埋め込まれた人間が飲めば、すぐに傷が塞がる薬が。


前に足を撃たれた時に、投与された。

傷はあっという間に塞がって、痛みもすぐに無くなった。

心配しなくても、ミカだってもう飲まされてるよ」



女王様だって、そこまで鬼じゃない。

クズなミカにだって、きっと与えてるに決まってる。



俺の言葉を信じたのか?ハヤトは無言で椅子に座った。

マリアは相変らず、無表情のままテーブルを見つめている。


俺達は、誰も話そうとしないまま、ただ椅子に座り続けた。


「あら、貴方達ここに居たのね」


静かな室内に、聴きなれた声が響く。

俺達は、一斉に声が聞こえた扉の方を見た。


扉が開くと同時に、いつも身の回りの世話をしてくれる寮母がヒョコっと顔を出す。

その顔は、ニコニコ微笑んでいた。

なんだろう・・・・・・、寮母さんの顔を見ただけで、凄く安心する。



「真鍋さんからの伝言よ。

今日の任務はもうないから、自由にしていいって。

ここで座っていても退屈でしょ?お部屋に戻ったら」



あ・・・・、真鍋さん今日は来ないんだ。

そりゃそうだよな。

法律が変わったんだ。

俺達に構ってる暇はない、きっと忙しいんだろう。

そう、俺は解釈したのだけれど、あいつは違ったみたいで・・・・。



「来ない?あれだけの出来事を、僕達に見るよう指示を出して、フォローもないなんて。

あの人も女王も、何を考えているのか、僕には理解出来ない」


また、これだ。

ここまできたら、もう病気だろ。

そもそも、何故いちいち俺達に 出来事の全て を、説明される必要があるのだろうか?

別に説明なんてしてもらわなくたっていいんだ。

俺は、ここで 生かして 貰える事だけに満足している。

ただ、 あれをしろ これをやれ と、指示を出して貰えるだけでいい。

俺はその指示に、忠実に従う。

それが、俺を 生かして貰えた事に対するお礼 だから。



「そもそも、お前は女王様や真鍋さんがやろうとしている事を理解しようとしてるのかよ。

いっつも、文句ばかり。

二人の話なんて、聞く耳を持たないじゃないか。


どうして俺達が、女王様達がやろうとしている事を知らなくちゃいけない?

知る必要はないだろ。

俺達の立場は、女王様達に 生かされてる身 なんだから。

ただ、二人が出す指令に、従えばいい」



すると、ハヤトは俺の事を キッ と睨みつけた。

まぁ、こうなるとは思ったけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る