第83話改革 4
「どうしたんだろ・・・・?」
その様子を見ていたハヤトが、ポツリと囁いた。
「あのミカがあんなに怯えてるなんて、不思議だわ」
マリアも表情は変えないものの、違和感を感じているみたいだった。
そして、俺は・・・・・
「違う、女王様は悪くない。
怯えてるのだって、きっと・・・・ミカが悪いんだ」
女王様を信じる事にした。
あの人がやろうとする事には、必ず理由があるはずなんだ。
真鍋さんと女王様は、俺を裏切ったりはしない。
この二人が居なければ、今の俺は存在していないのだから。
だから、最後まで信じ続ける。
「この子は、同じクラスの子を執拗にイジメ、死に追いやりました。
まだ生きていたかったのに、この子がイジメたせいで、死を選ばざるおえなかった子が居る。
その子を失った家族が、どういう気持ちで今生きているのか?貴女にはわかる?!
わからないでしょ!アンタ達なんて、自分の事しか考えていない!
クズでしかない!目障りなのよ!」
女王様は、怒鳴りながらミカの髪の毛を鷲づかみにすると、床に何度も叩き付けた。
その姿は、まるで鬼にでも取り付かれたのかと思う程、普段の上品な雰囲気を持った女王様とはかけ離れていた。
「ごめんなさいっ!・・・は、反省してるから・・・・!」
ミカが必死で謝る声が、聞こえる。
あのプライドだけは高いミカが謝るなんて、意外。
あれだけ必死で謝るという事は、これから何かが起こるのだろう。
それをミカは知っている。
知っているからこそ、必死に謝罪し、今すぐに許しを得ようとしているのだ。
しかし、その声は女王様には届かなかったみたいで、
「この子はこれから、死刑執行人として罪人を裁くという任務がある。
だから、殺す事は出来ない。
でも、私はこの子が犯した取り返しの付かない罪を許す事なんて出来ないっ!!!
命を奪う事はないけれど、この子にも何か罰を与える事にしよう。
死刑執行に支障が出なければ、いいのだから。
右手の指を全て切り落とす。
それで、この子が犯した罪が償われた訳ではないけれど、
これから死刑を執行するに辺り、なんらかのケジメをこの子に与えなければ、おかしいでしょう?」
まるで、映画のワンシーンを見ているみたいだった。
女王様があの言葉を発した後、
「酷過ぎる」
ハヤトはモニターから目を離し、
「・・・・っ」
マリアも、ため息を付くと、静かに目を伏せた。
しかし、俺は目をそらす事なく、その一部始終を見続けた。
女王様が酷いんじゃない。
同級生をイジメ、自殺に追いやったミカが悪いんだ。
そんな酷い事をしておきながら、ダラダラ生き続けたミカが悪い。
今、その罪を償う時が来ただけなんだ!
泣き叫び暴れるミカを、黒服の男たちが押え、手を床に伸ばす。
女王様は、ミカの事なんてまるで気にする事なく、1本ずつ指をナイフで切り落としていく。
ナイフが指に当たるたびに、ミカの泣き叫ぶ声が響く。
それでも、女王様はその行為を止めようとはしない。
表情そのものは、怖いままだったけど、俺には女王様が酷く悲しんでいるように見えた。
そりゃそうだ。
誰だって、他人に危害を加える事に心が痛むはず。
一部の人間は、なんとも思わないかも知れないけれど、女王様はそこまで酷い人間ではないから。
だからきっと、悲しいんだと思う。
指を切り終えたミカは、そのまま黒服を着た男たちに引きづられていった。
モニターには女王様が一人ぽつんと残されている。
しばらく、床に転がるミカの指を見つめていた。
彼女は何を思い、考えているのだろう?
静寂が流れる。
顔を上げた女王様の目から、涙が流れていた。
しかし、顔は笑っている。
あまりの出来事に、壊れてしまったのだろうか?それとも・・・・。
そして静かに口を開いた。
「やっとこの国を、造り返る事が出来る。
新しい世界が始まるわ」
そこでプツリと、モニターは途切れ砂嵐へと変わった。
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