第85話改革 6



「涼がそこまで 洗脳 されているとは思わなかったよ。

それじゃあ、まるで女王と真鍋さんの 犬 じゃないか。


いや、違う。

以前の君はそうじゃなかった。

もしかして、この前怪我した時に投与されたという薬に、何か入っていたんじゃないのか?

その副作用のせいで、頭がおかしくなってしまったんじゃ・・・・」


怒ったと思えば、突然深刻は顔をする。

俺の頭がおかしくなった事を心配しているけれど、俺からしてみたらハヤトの方がおかしく見える。

ある時を境に、女王様達をバッシングするしか出来なくなったこいつが。



「何もされてないって!

変人扱いするんじゃねーって」


こいつと会話しても無駄だ。

部屋に戻ろう。

椅子から立ち上がると、



「もう喧嘩しないの。二人は仲間でしょ?」


苦笑いを浮かべながら、寮母さんが宥める。

この人に、こんな場面を見せるなんてなんか悪い気がして、

頭をペコリと下げ、部屋から出ようとしたその時、



「そうそう、明日から任務でしばらくココから出て行く事になるんだから、

ゴミとかあったら、先に出しておいてね」



明日から?

もしかして、以前真鍋さんが言っていた 外の世界 へ向かうっていうアレの事か?

女王様が思い描いた、 理想とする世界 を作る日々が始まるというのか?



そして、俺が英雄となるその戦いが 始 ま る の か  。





「任務でココを出ていくって・・・・・。

これから僕達は、何をやらされるんだ・・・・・・」


ハヤトの表情が曇る。

何言ってんだか。

俺達はもう、たくさんの モンスター達 を殺してきたじゃないか。

今更、何に怯え、何を考え込まなくてはならないのか、全く理解出来ない。

それに、もう決定した事なんだから、俺達が何か言った所で、変更される事はないのに。



「・・・・・」


マリアは無言で椅子から立ち上がると、部屋を出た。

明日から旅立つから、片付けとかをするんだろう。

ハヤトよりも、ずっと賢くて自分の立場をよくわかってる。


俺もふさぎ込むハヤトを横目に、自分の部屋へと戻った。

しばらくの間、ここには戻らないのだから、部屋の中を片付けておかないと。



スタスタ歩くマリアの後ろを、俺も歩く。

別に後を付いていった訳じゃない。

同じ方向に、部屋があるだけだ。


そういえば、しばらくの間留守にする訳だけど、マリアはアリスと会えなくて平気なんだろうか?

俺にはそんな 大切な人 が、居た事がないからよくわからないけど、

きっと、しばらく会えないとなると、悲しくなったり、辛いはずだ。

いつもマリアは、表情を顔に出す事がないから、今どういう心境なのか?わからないけれど、

きっと辛いんだろうな・・・・。



そんな事を考えているうちに、自分の部屋の前へ到着。

ドアノブを回し、自分の部屋に一歩入ると、そのままベッドの上に座り込んだ。



あれ?俺がここに戻ってきた理由って、部屋を片付けるんじゃなかったっけ?

それなのに、なんで真っ直ぐベッドの上に座りこんでるんだか。



あぁ、そうだ。

片付ける物が無かったんだ。

部屋の中には、机と椅子、ベッドとダンボールがあるだけ。

他の物が何も無い。


相変らず、俺は自分の欲しい物を買うという行為が出来ずにいた。

何が欲しいんだかわからない。

いや、本当はわかってる。

やっぱり俺の欲しい物は、 金で買える 物じゃないんだ。

もっと違う物。


本当は、金で買える物が欲しい。

でもそれが見つからない。

もっと気楽に行きてぇよ。

なんで俺、こんなつまらない人間なんだろ。

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