第76話帰る場所 4

足早に、訓練施設へと戻る。

きっと、マリアはそこに居るはずだから。


特に、話したい事があった訳じゃない。

ただ、なんとなく一緒に居たかった、それだけ。



施設の扉を開けると、 ガシャンガシャン と金属に何かがぶつかる音が響いていた。

この音は聞いたことがある。

マリアが、足専用のアスレチック器材で訓練している音だ。


そんな懐かしい音に惹かれるように、気づけば俺は、

手専用の器材を通り過ぎ、奥にある足専用のアスレチック器材の前に立っていた。



あれ・・・・、俺、何やってるんだろ・・・。

こっちは、足に漆黒の翼があるマリア向きの器材なのに。



そう思い、再び、手専用の器材の方へ戻ろうとするが、

手前にある、ランニングマシンはどうせミカが使うだろから、使いたくない。

かといって、他の器材でトレーニングしようにも、ミカと顔を合わせれば、罵声の飛ばしあいになるのは目に見えている。



どうしたものか・・・・。



そんな事を考えていると、気づけば俺は、再び足専用のアスレチック器材の方へ歩いていた。

足専用とはいえ、多少足も鍛えたんだ。

俺にも、出来ない事はないだろう。



アスレチック器材を潜ると、そこは独特の空間になっていた。

ジャングルのような、高い木が何本も聳え立つと思えば、反対側の壁は、一面岸壁。

奥には、天まで続くジャングルジムがあったりと、一言で言えば、全体的に高いという印象。



用はあんまり、上まで登らなければいいんだ!

下の方で、チョコチョコ登ったり降りたりを繰り返していれば、怪我もしないだろう。



上を向くと、マリアが木と木の間を、自由に飛びまわっていた。


足の漆黒の翼は凄いなぁ・・・。

まるで、空を飛んでいるみたいだ。

恐らく、あの高さから落ちても、死ぬ事はないだろうな。


それに比べて、俺の手にある漆黒の翼は、飛ぶ事も何も出来ない。

ただ、モンスターを殺す事のみにある。



とりあえず・・・・。


岩壁に手を伸ばした。

手始めに、登れる所まで・・・。

そんな軽い気持ちで、俺は訓練をし始めた。


結構、辛いじゃん・・・・。


現在、岩壁を登り始めて、2mの地点。

すでに、両腕の筋肉はパンパンだ。



ここでマリアは毎日、訓練していたなんて、俺達より凄いじゃないか!



このまま登り続けるのは不可能だと思い、

ゆっくり、降りようとした時、



「あっ!」



岩壁を掴んでいた指が滑った。



落ちる!

と、思ったけれど、登った距離はたったの2m。

落ちた所で、そんなにダメージはないと、覚悟を決めた時。


ふわりと俺の身体に何かが触れたと思うと、ゆっくり床へと着地していた。



マリアだ。

マリアが、俺の身体を抱きかかえ、地面までゆっくり降ろしてくれたんだ。

別に、この高さから落ちた所で、軽い捻挫くらいで済んだろうに・・・・、

マリアの無言の優しさが、伝わってきた。



「ありがとう。わざわざ助けてくれて・・・・」


お礼を言うと、



「・・・」


無言で、俺から背を向けるマリア。

どうしたんだろう?

もしかして、俺がここに居る事が迷惑なのだろうか?

訓練を邪魔された事を、怒ってる?



「あの・・・・、ごめん!邪魔するつもりは無かったんだ!」


立ち上がり、マリアの真正面まで走ると、急いで頭を下げた。


しばらくの間が流れた後、顔を上げると、顔を真っ赤にして俯いているマリアの顔が目に入る。

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